そこにロックンロールがあれば…映画『幸せをつかむ歌』を観て

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『キャロル』を劇場で観た際に流れた予告編で「お?」と思った『幸せをつかむ歌』。メリル・ストリープがクリソツな実娘と競演というふれこみには全く心動かされないが、監督がジョナサン・デミ(『羊たちの沈黙』の、というより『ストップ・メイキング・センス』の)で脚本がディアブロ・コディ(『JUNO』『ヤング≒アダルト』の)ならば間違いなく面白いだろうと思い後日劇場に足を運んだ。例によって「音楽がらみの映画を観るならばここ」な立川シネマシティの極上音響上映。『幸せをつかむ歌』なんていう邦題でメリル・ストリープ主演の母娘ものというと『マンマ・ミーア!』的なハートウォーミングな話を想像してしまうが、さにあらず。と書いて、そうか、これはシニカルな『マンマ・ミーア!』なのかと、いま気がついた。

原題の『RICKI and THE FLASH』はメリル・ストリープ演じるリッキー(54歳)が率いるロックバンドの名だ。夫と子供たちを棄て夢に生きてきたリッキーだが、過去にアルバムを1枚出したきりで、今はロスの場末のロックバーでハコバンとしてオールドロックのカバーを演(や)る日々。トム・ペティやストーンズのカバーは中高年にはウケるが、時には若い客のためにレディ・ガガやピンクの曲も演奏しなければならない。バンドのギタリスト(グラミーアーティストのリック・スプリングフィールド!)といい仲だが、当然金のない貧乏生活で、つくり笑顔を強要されるスーパーのレジ打ちでなんとか食べている状態。

そんなリッキーの元に、元旦那から「娘が離婚して家に戻ってきた」との連絡が。なんとか飛行機代だけは工面して、リッキーは20年ぶりに家族のいるインディアナポリスに帰ることになる…というのが物語の導入だが、この辺りは完全にシャーリーズ・セロンが元彼のいる地元に帰る『ヤング≒アダルト』とカブる設定で、例によってシニカルな展開になることが予想される。

リッキーは過去ブッシュに2回投票し「軍隊は必要よ」なんてことをサラッと言い放ち、人種差別的な態度も厭わない女。ロックを続けるために家族を棄て、「私はトラディショナルなママじゃなかった」と述懐する。格差・人種・同性愛・ドラッグ・ジャンクフードなど、アメリカを取り巻くさまざまなパーツが全編にちりばめられているが、決してとっちらかった印象がないのは、その中心にロックンロールがあるからだろう。「私にはこれっきゃないからさ」と言いながらギターをかき鳴らし、シャウトするリッキーの、やさぐれてはいるが純粋な姿勢は、アメリカンオールドロックの響きと呼応してストレートに観る者の心に響く。ロックがすべての問題をチャラにしてしまう、というと嘘くさいが、その一瞬の魔法を信じる気持ちになるのも確かだ。まさかメリル・ストリープが歌うB.スプリングスティーンのカバーで泣かされる日がこようとは。

どんなにダメになっても、政治から経済、社会に至るまで問題が山積していても、アメリカにはロックンロールがある。そんな諦念すら感じてしまうわけだが、トーキングヘッズやニール・ヤングのドキュメント映画を手掛けた「音楽がわかってらっしゃる監督」であるデミが撮るライブシーンはやはり気分がアガる(EX:イントロでリズムを刻む足元を写すetc.)。

上映時間2時間超えが当たり前の大作映画の対極にあるような、1時間半でスパンッと終わる潔さ。それはまるで3分間によろこびと悲しみのすべてを詰め込むロックンロールミュージックと同質の潔さだ。バンドのステッカーのようなフォントで『RICKI and THE FLASH』のタイトルが出るカッコよさと相まって、実に気分よく劇場を後にすることができる。




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by sakurais3 | 2016-03-25 13:59

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