サンモリノのナポリタン


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いや何、行列ができてるらしいっていうんでね、諦めたんですよ、一度は。ええ、サンモリノのナポリタン。そう、期間限定でね、復活したんです、6日間だけ。サンモリノってえのはね、立川の第一デパートっつうデパートとは名ばかりの雑居ビルの地下にあったカウンターだけのちっさい店でね、駅前の再開発で建物がぶち壊されるってんで閉店に追いやられたのがかれこれ3年前。第一デパートは今や跡形もなくなっちまったけど、そのうち下が家電量販店で上がマンションのでっかいビルがぶっ建つらしい。

40年の歴史ある店だもんだから閉店を惜しむ声もずいぶんあったそうで。かく言うあたしも一時期はよく通ったもんです。それがなぜか立川高島屋の創業45周年記念とやらでこのたび復活と相成ったもんだからおどろいた。懐かしいあの味をもう一度食ってみてえもんだと思ってはみたけども、ついったーなんぞでサーチしてみりゃあ高島屋の開店時間前から外に行列ができてるってえ話だし、午後も早めに売り切れだってんでこりゃ話にならん。とにかく少しでも列に並ぶくらいならさっさと諦めるってくらいのせっかちなもんだから1時間も並ばねえとありつけねえ食いもんなんざもってのほかだ。そもそも行列してまで食うようなもんじゃねえなんてね、いきがって思い出に蓋しちまったのさ。

ところがね、今日たまたま立川の信託銀行に用事がありましてね、すぐ近くに高島屋があるもんだから、一応覗いてみたんです、ダメ元って奴で。時間は午後3時半くらい。最終日だし、どうせ行列か売り切れだろうなんつってタカをくくって地下の階段をとととーんって降りてったら、これが全然並んでない。あれーっなんつって驚きながら入口のおばちゃんから食券買ってると、「はいここでいったんマスター休憩入ります」かなんか言ってる声が聞こえるんだ。ギリギリ休憩前のラスイチに間に合ったってわけさ。そんでいただきましたよナポリタン、うん。

これ、1時間並ばされたらたまらんけども、スッと行ってサッと出できたらそりゃあ結構なもんです。ちょいと甘めのトマトソースが麺にとことん絡まってやがって、食べた瞬間あああの味だっつって時空間飛び越えそうになりやしたよ。ナポリタンなんてあちこちにあるけども、確かにこいつあちょっと他にない味だったんだなあなんてしみじみしちまってね。かけがえのないものは失って初めて気づくなーんて異国の詩人みてえなことを1人ごちてたんで。

まああれですよ、実際に週末は1時間待ちの行列だったみてえなんで、たまたま今日は運が良かったってえ話なんでしょうけどね、でもね、行って良かったですよ、ええ。第一デパート時代なんざいつ行ってもたいして混んでなかったんだから、そもそも行列ってのが似合わねえ。えすえぬえすのネタ消費組ってのもけっこう多かったんじゃねえかと勘繰ってるんだけど、おまえもこうやってぶろぐに書いたりしてんのはネタ消費じゃねえのかいって?

てやんでい!




と、まあここからは普通の文体に戻すが(誰だったんだ今まで)、何を隠そう、かつて僕がつくっていた個人雑誌『リトル・マグ』2008年発行のvol.6に「サンモリノのナポリタン」という記事を掲載していたのだ。



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「PLACE 心地いい場所はどこ?」というコーナーだったのだが、そこではこんなことを書いている。

「(中略)ここからが本題なのだが、このビルの地下に、サンモリノという軽食の店がある。メニューはスパゲティもしくはカレー、あるいはピラフ。わずか8席のカウンターに身を押し込めば、やるせない風情のようなものがひしひしと感じられて、無闇に和む。どこで何を食べていいのかわからない予備校生が中途半端な時間に昼ごはんをかっこむ、というタイプの店で、いちばん人気のナポリタンをフォークですくい、ずぞっと食せば、分析だの批評だのといった概念は見事に消し飛び、ただひたすらナポリタン的宇宙に身をゆだねるしか術はない。『なつかしの昭和の味』なんぞという切り口でもってナポリタンを再評価する人々とはあまり関係なく、ごく当たり前の日常の風景として、サンモリノのナポリタンはつねにそこにある。」

「が、しかし。『つねにそこにあるもの』が、いつのまにかなくなるのが現実である。どうやら第一デパートは駅前再開発で取り壊されて某家電量販店になり、上層部はマンションになるのだという。」

「第一デパートが取り壊されたあと、サンモリノがどこか別の場所で営業するのかどうか、それは知らないしあまり興味がない。移転するのであればそこに食べに行くかもしれないし、行かないかもしれない。重要なことは、『この場所』にあるサンモリノはなくなるということだ。別の場所に移ったら、それはここにあるサンモリノではなくなる。」

7年前の文を久しぶりに読み返したが、今と考えていることが恐ろしいほど変わっていないという己の進化のしなさ具合はとりあえず置いておくとして、こういう文を書いていたこともあって、今回の復活にはいろいろな思いがあった。

とにもかくにも、嬉々として行列に並ぶようなことはしたくなかったし、SNSのネタ消費組の祭と一緒にされるのもどうかと思った。今日も、売り切れだったらそれはそれでいっこうに構わないとすら思っていた。

「つねにそこにあるもの」が、ある日突然消失する。そして、またある日突然よみがえる。何の前兆もなく。まるで人生のような…などとは言わない。生きていると、そういうこともあるんだな、というだけの話である。

いろいろなことを考えたが、それはこのブログには到底収まらない。とにかく、久しぶりに食べたサンモリノのナポリタンは美味しかったというのはまぎれもない事実だった。

…本当はカレーも好きだったんだけど。




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by sakurais3 | 2015-06-10 01:04

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