最初で最後の「丸善のマナスルシューズ」

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営業終了までいよいよあと10日となった浅草の三交製靴。

「丸善のマナスルシューズ」をつくっていた老舗靴メーカーが90余年掲げ続けてきた看板を下ろす日が近づいてきたわけだが、思えば2015年の1月から5月まで、このブログで幾度となく三交製靴のラギッドシューズ(旧マナスルシューズ)について書いてきた。このブログを読んでラギッドシューズを注文したというひとが知る限りで数人いたりするというのも驚きなのだが、自分がこの靴に惹かれたのとおそらく同じ理由で関心をもったひとが多かったのではないかと想像する。それは「あの老舗書店・丸善で売られていた靴」というバックグラウンドに依るところが大だろう。

かの夏目漱石、芥川龍之介、梶井基次郎ら、おおくの作家たちに贔屓にされ、作中にも登場することで知られる丸善。漱石は丸善の万年筆を愛用し、宮沢賢治は丸善の原稿用紙で『銀河鉄道の夜』を書いた。かつてそこで売られた靴があり、愛用者が多数いた。丸善で販売しなくなってからも、三交製靴は浅草の小さな靴メーカーとして営業を続け、長年の愛用者の足を支え続けてきたのだ。

そもそも自分は、「洋服屋で売られている本」だとか「飲食店で売られているTシャツ」だとか「本屋で売られているCD」だとか、「ほんらいそこで売られるべきアイテムではないもの」に惹かれる傾向がある。ようするに根っからのアマノジャクなのだが、そうした性質からしても、「丸善で売られていた靴」というのはそれだけで心惹かれるものがあった。

すでに何度も書いたように、僕が今年に入って「丸善のマナスルシューズ」が気になり出したのは、YMO周辺のデザインで知られるグラフィックデザイナー・奥村靫正氏が、自身の愛用品として紹介していた雑誌の切り抜きをネタ帳という名のファイルを見ていてたまたま発掘したことに端を発する。もし、今年の1月にその切り抜きを目にしていなければ、三交製靴のことも、ましてや5月に営業終了することすら一切知らないままだったろう。たとえば、今年の年末の大掃除でその切り抜きを見つけ、気になって「丸善」「マナスルシューズ」で検索をしたとしても、時すでに遅しだ。もう三交製靴の靴は(オークションなどを除けば)買うことはできなかった。そう考えると、縁というものは不思議なものであり、何やら恐ろしくもある。

すべては、この一枚の切り抜きを発掘したことからはじまった。何年のものなのか正確には分からないが、これを雑誌から破り、保存しようと思い立ったガキの頃の自分を少しだけ褒めてあげたい気分だ。おまえ、結構いいセンスしてるよ。


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三交製靴では、5月20日の営業終了に向けて会社のサイトで在庫処分を行なっている。さまざまなアイテムが並び、「へえー、こんなのも作っていたのか」という驚きとともに眺めているのだが、なかなか欲しいと思うデザインとサイズが一致せずに二の足を踏んでいた。個人的には雪道対応のスノーソールやレザーソール、ウレタンソールではなく、やはりラギッドソールが好ましい。

普段、ラギッドシューズの黒と茶のプレーントゥ2足で回しているのだが、黒のほうが出番が多いため、早めに劣化しそうな気もしていたので、もう一足黒のプレーンを買い足しておいたほうが安心だろうなどとも思っていたが、出ているのは黒の26.5㎝で足幅が2E。ジャストサイズは26㎝の3Eなので、若干躊躇したのだが、思えば今履いている二足とも「三交製靴のラギッドシューズ」で、在庫処分品は「丸善のマナスルシューズ」。これで最後なのだし、やはり丸善のネームの入ったマナスルシューズが欲しいではないか。というわけで、「2Eはハーフサイズ小さめとお考えください」との但し書きを信じ、メモリアル的な意味合いで購入することに。セール価格15000円というのもありがたい。ちょうど上記の切り抜きに表示されているマナスルシューズの価格が16000円なので、ほぼ同じ。まるで時間を遡って丸善で買うような気分だ。

下の画像は三交製靴のサイトより。すでにこの靴は各サイズ完売らしく、写真も消されていたが、これは事前に保存しておいたもの。
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連休直前に三交製靴の松田さんにメールで注文したのだが、当然ながら連休に入って会社もお休みとなり、なかなか返信がない。各商品は一足ずつしかないだろうから、オーダーがバッティングした場合は先着順なのだろうか、などと考えてやきもきしていたら、連休最終日にメールがあり、無事確保できた。職人さんがいちからつくると2~3週間ほどかかるが、今回は在庫なので代金を入金したらすぐに商品が届いた。昨日振り込んで今朝もう届いていた。早い! いやまあ、ネット通販では当たり前なのだが、なんだか妙に感動してしまった。


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若干心配していたサイズ感も、試し履きしたところまったく問題なさそうだ。長さがハーフサイズあがり幅が2Eになったことで、全体的にシュッとしたイメージ。3Eのころんとしたフォルムも好きだが、こちらは少しだけ上品な雰囲気でスーツなどにも合いそうだ。一枚甲のフィット感は現行のプレーンとはひと味違う気もする。まだ何も手入れをしていない状態だが、革質が割合しっとりしていて、ギラつきやテカりがないのも良い。クリームを塗っていくことでかなり雰囲気が出そうな気がする。これは買っておいてよかった。

中敷き、ソール、箱にも丸善のネームが。

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何より、ようやく最後に「丸善のマナスルシューズ」を手にいれることができたのだ。最初で、最後の、丸善のマナスルシューズ。時間と記憶を積み重ねた一足を、これから履いていく。











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by sakurais3 | 2015-05-09 13:45

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