人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「足りている」ということ


「足りている」状態とは、どういうものだろう。自分のそばに必要なものが必要な分だけある、そんな状態だろうか。

ひとの欲望には際限がないので、放っておくと「満ち足りた」状態へ行こう行こうとする。「足りている」と「満ち足りている」とは、似ているようで違う。満ち足りている状態とは、ほぼ完璧に近いマックスな状態なので、そこからはもう先がないように思える。一方、足りている状態とは、まだ完璧とは言えず、これから先も何がしか埋めていく余地が残ってはいるものの、とりあえず今は必要なものが目の前にある、という感じか。

そうした意味でいうと、今の自分は足りている。少なくとも、革靴に関しては。そう、先日、三交製靴に注文していたラギッドシューズの茶のプレーンタイプがようやく届き、既に履いていた黒のプレーンと併せて、革靴についてはしばらく何も考えなくてもいい、すなわち足りている状態なのである。三交製靴の現行の靴6種のなかで、最もベーシックなのは当然ながらプレーントゥだ。その黒と茶が一足ずつあれば、もうそれで十分ではないだろうか。

もちろん、他のタイプの靴はどんな履き具合なのか興味もあったが、今の僕はこの二足をとっかえひっかえ履くくらいがちょうどいい。きちんと手入れをしながら、その日の服装に合せて黒か茶のいずれかをチョイスする。履く靴が決まっていると、着る洋服や持つ鞄もおのずと決まってくる。そのうえで季節に応じて足りないものだけ買い足していけばいい。元来のめんどくさがり屋にはふさわしいといえよう。

三交製靴の営業終了は5月20日の予定だが、サイトを見ると雪道対応ソールのスノータイプの在庫が数個残るだけのようだ。既に新規の注文と修理は締め切られているから、対外的には事実上営業終了といっていいのかもしれない。これで、どこかの丸善の倉庫からデッドストックが!みたいなサプライズでもない限り、あるいはオークションサイトなどに出品されない限り、残念ながら丸善のマナスルシューズもラギッドシューズも手に入れることはできない。


そういえば、ラギッドシューズの黒と茶をふたつ並べて写真に収めていなかったなと思い、ニコンのミラーレス1眼で撮影したのが下の写真だ。



「足りている」ということ_b0104718_01154049.jpg


iPhoneにしてから、旅行以外ではミラーレス1眼を持ち歩かなくなってしまったが、こうして見るとなかなか悪くない。

デザインも木型もサイズもまったく同じふたつの靴のはずなのだが、よく見ると微妙な違いがあることに気づく。黒のほうがタンの部分が短い。その辺も大量生産される規格品とは異なるハンドメイドならではだろうか。ひょっとすると、使っている革も含め、まったく同一の靴はないのかもしれない。そう思うと、さらに愛着が増してくるというものだ。

このプレーントゥは、個性を主張するようなデザインではまったくない。形だけ見れば、あまたの靴に埋没してしまうかもしない。にも関わらず、この靴には押しつけがましくない不思議な存在感がある。さらにいえば、人格ならぬ靴格があるとすら思える。

ふたつ並んだプレーントゥは、黒が堅実で真面目な兄、茶がちょっとやんちゃな弟のようにも見える。兄は田舎で公務員、弟は東京に出て喫茶店で働いている。「おまえもいい加減ちゃんとして父ちゃん母ちゃん安心させたらどうだ」が兄の口癖だ。弟は「俺には俺の夢があんだよ。親の言いなりの兄貴とは違うんだ」などと口答えするものの、兄のことを心のなかでは尊敬している。…って、何の話だこれは。



「足りている」ということ_b0104718_01160610.jpg




by sakurais3 | 2015-04-07 01:06

ライター・さくらい伸のバッド・チューニングな日々  Twitter saku03_(さくらい伸)


by sakurais3
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31