食+音楽+旅+SNS---『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』を観て

※ネタバレはありませんが、ストーリー展開に触れているので、これから観る予定のひとはご注意ください。


4月1日の映画の日、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』を観た。ジャン・レノが出た『シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』(2013年)なんて映画もあったりしてややこしいが、「シェフ」は原題である。


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製作・脚本・監督・主演は、『アイアイマン』の監督や『アベンジャーズ』の製作総指揮などを務めたジョン・ファブロー(個人的には脚本・出演の『スウィンガーズ』(1996年)が印象深い)。ロサンゼルスの一流レストランのシェフ、カールが、すったもんだの挙句、店を追い出されるハメになり、自身の原点であるフードトラック(移動式屋台)でアメリカを横断する話…と書くと、よくある設定だよね、と思うかもしれないが、これが実にゴキゲンな映画に仕上がっているのだ。


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一流レストランのシェフがオーナーと揉めて店を追われ、屋台からやり直そうとする設定は、ビッグバジェット映画に携わるなかでさまざまな軋轢や葛藤を味わったであろうファブローの実人生とそのまま重なる。たとえば、上からは「芸術作品なんて必要ない。万人受けする娯楽作をつくれ」と言われ、一部批評家からは「大衆に媚び過ぎている」などと批判される。そんななかで、「俺は一体誰のためにものをつくっているんだ」と自問自答したのかもしれず、それが本作のシェフ、カールの人生に色濃く投影されている。というか、まあファブローの置かれている立ち位置そのままと言ってよいのだろう。「低予算で自分が本当につくりたいものをつくる。儲けは二の次」という姿勢でつくられた本作は、しかし興業的にも成功を納め、批評家や観客からも絶賛されたというから痛快だ。

物語のはじまりはこうだ。

その日、カールは朝から浮き足立っていた。かつて自分の料理を絶賛してくれた料理評論家がふたたび自分の料理を食べに来てくれるのだ。評論家を唸らせるべく、早朝から仕込みに余念がないカールだったが、レストランのオーナー(ダスティン・ホフマン)は、「メニューはいつも通り。おまえの趣味みたいな料理は出すな。他の客はいつもの料理を食べに来るんだ」と一喝。「ローリングストーンズのコンサートに来て『サティスファクション』をやらなかったらどうなる?」と(確かに一理ある)。そこは雇われシェフの身、やむなくド定番の通常メニューを出した結果、評論家に「昔はあれほど輝いていた彼の料理も、いまや親戚のおばちゃんのごはんみたいに精彩を欠いたものになってしまった」みたいな酷評をネットで書かれてしまう。はらわた煮えくり返ったカールは、10歳の息子に教わった覚えたてのツイッターで評論家宛に暴言をつぶやく。個人宛のメールのつもりが、その暴言は次々に拡散、ついにカールは「今度は自分の神髄の料理を出すからもう一度店に来い!」と宣戦布告。ネットでそのやりとりを知った野次馬たちで店内が埋まるなか、ついに対決の時が…

というのが導入なのだが、ツイッターの炎上で店をクビ、暴言を吐いた動画はYouTubeにアップされ、カールは(悪い意味で)有名人となり、「問題のある料理人」はもはやどこの店も雇ってくれない。現実にも起こり得るネット社会のリアルなエピソードによって崖っぷちに立たされるカールを描いていく、その手際は実に見事だ。

すべてを失ったカールは、原点に帰ってフードトラックを始めることにする。元嫁(ソフィア・ベルガラ)の元夫(『アイアンマン』のロバート・ダウニーJr!)に頭を下げて古いトラックを譲り受ける屈辱を味わいつつ、元嫁と暮らす10歳の息子を見習いシェフとして同乗させ、マイアミからニューオリンズ、テキサス・オースティン、ロスへと移動しながら料理を売り歩く。メインメニューは、マイアミで食べた絶品のキューバ・サンドイッチだ。カールを「ボス」と慕うレストランのスタッフ、マーティン(ジョン・レグイザモが好演)も店を辞めて参加、キューバ・サンドに各土地ごとの名物料理を採り入れながら、カールの原点回帰にして「本当にやりたかったこと」を手に入れるにぎやかな旅が続いていく。

※譲り受けるオンボロトラックは1988年製だというが、ひょっとするとファブローが自身のキャリアをスタートさせた年ではないか、などと勘ぐった。

ネットに詳しい10歳の息子パーシーが、SNSでダメージをくらったパパのリベンジをするかのように、トラックで移動中にSNSを駆使しながら集客していく辺りも頼もしい。なんとも美味しそうな食べ物があり、ゴキゲンな音楽があり(ソウルクラシックからラテン、ブルースへ、移動する土地とリンクして音楽が変わっていく)、いい女がいて、信頼のおける者との旅がある。人生において一体これ以上何が必要なのでしょうか、という感じだ。


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それにしても、元嫁はソフィア・ベルガラで今カノがスカーレット・ヨハンソンって、どんだけモテ設定なのか、カールは。日本でいえば樋口真嗣監督が俳優として出演して元嫁役が米倉涼子で今カノが石原さとみ…みたいな設定だろう。

いずれにしても、ペリーコ・エルナンデスの曲がフィーチャーされていたりと、全体的にラテン色が強いため、とにかくハッピーな気分になる。





賛否が分かれるとすれば結末の落としどころだろうか。僕はあれはあれでカールの選択としては間違ってなかったように思う。内装や料理を見るかぎり、カールの主義主張を貫きつつ、かつ客に趣味を押し付けるようなことはしていないだろう。旅を通して掴みとった創作性と大衆性の融合がしっかりと実現しているのではないだろうか。利用できるものはすればいいのだ(観ていないひとは何のことやらだと思うが)。

低予算だが口コミで評判になった、疎遠だった父と子が創作を通じて関係性を取り戻していく、やりたいことを押し通す情熱をネットが後押しする等々、先日このブログでも書いた『はじまりのうた』と重なる部分も多いが、SNSの扱い方はこちらのほうがより具体的だ。

特に息子のパーシーがiPhoneの動画アプリで旅を記録し、思い出として編集してカールに送るエピソードはグッとくる。いわば『ニューシネマパラダイス』におけるキスシーンの現代版的ニュアンスもあるが、あちらが細切れのフィルムだったのに対して、こちらは最先端のスマートフォンの機能を駆使している。父と子の絆という古典的な物語を盛り立てるディティールはいかにも現代的であり、しかも単に現代の流行や風俗として取り込んでいるというだけでなく、きちんと物語を動かすツールになっているのだ。

キューバ・サンドはもちろん、ニューオリンズの名物ベニエや深夜にカールがスカヨハのためにササッとつくるペペロンチーノ、テキサスの一晩炭火でじっくり焼き上げたローストビーフなど、「あれも食いたいこれも食いたい」状態になること必至ゆえ、空腹での鑑賞は避けるべし。

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by sakurais3 | 2015-04-03 01:27

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