MADE IN TOKYOの矜恃---三交製靴のラギッドシューズ

少し前の記事で書いた「丸善のマナスルシューズ(現・ラギッドシューズ)」をついに手に入れた。

ブログに書いて以来、どうにもこの靴のことが頭から離れず、ネットで検索すると熱烈なファンのひとの文章などにもいきあたり、ますます思いは募るばかり。2万円程度の靴を買うのに何をそんなにためらっているのかというと、基本的にこの靴は楽天もしくは製造元の三交製靴のサイトで購入するしかなく、つまりネット通販で靴を買うことに抵抗があったのだ。やはり現物を見て、履いてから買いたいと思うのは自然なことだろう。最大の問題はサイズの選択だ。普段スニーカーは27㎝(幅の狭いものであれば27.5㎝)を愛用しているが、それだと大きすぎるはずなので26.5㎝か、あるいは26にすべきなのか。こればかりは履いてみないことには分からない。

浅草6丁目にある三交製靴は、ショップではなく会社および工房だが、事前に連絡をすれば訪問は可能だとサイトに記されている。たまたま昨日、半蔵門で15時くらいに取材が終わり、ここからだと浅草はそれほど遠くないなと思い、駄目なら駄目でまた日をあらためようと会社に電話をしてみたところ、「17時くらいには出てしまうんですけど、それまでだったら大丈夫ですよ」とのことで、いそいそと浅草まで足を伸ばした。

浅草駅前のチャイニーズ観光客の軍団を避けるように神谷バーから馬塚通りを北へ直進、15分程歩くと三交製靴はある。周辺には、工房と呼ぶにふさわしい小規模な会社が点在し、職人の町といった趣きがある。グーグルのナビで目的地を目指していたが、近くまで来ているはずなのに見つからず、やや迷う。犬の散歩をしているひとに尋ねたら丁寧に教えてくれた。

会社の中は、昭和の靴工房の佇まい。応対してくれた女性(他のひとのブログによればMさんという方なのだろう)が笑顔でむかえ入れてくれ、数種類のタイプの靴、サイズを試し履きさせてもらったが、最初に最もシンプルな黒のプレーントゥを履いた瞬間に、ビンゴ!という感じだった。足を入れ、紐を結び、起ち上がった瞬間に、足元ががっちりと、それでいてやさしくつつまれるように支えられているのが分かる。この日一日履いたナイキのインターナショナリストを凌ぐ安定感だ。正直、写真で見た時は安全靴のようなソールの印象から、もっと無骨で履きならすのに時間がかかるタイプの靴という気がしていたのだが、実物を見て、履いた印象はまるで異なる。重量感も感じない。

サイズに関しては、26.5㎝と26㎝を履き比べてみたところ、あきらかに26㎝がジャストフィット。甲高幅広の足なので、スニーカーの場合サイズを大きくしないとキツい印象なのだが、この靴は日本人の足に合わせた木型を使っているため(甲が高めで幅は3E)、むやみに長さを必要としない。甲と幅が合っていれば、本来長さはジャスト(親指が楽に動かせる程度)でいいのだ。あるいは、ソールを本体に取り付ける際にミシンを使う以外、すべて手縫いでつくられる靴ならではの履き心地のせいなのか。

迷うのは、牛革のプレーンタイプか型押しにすべきかという点なのだが、おそらく履き続けた際の皺の出方などを考えると型押しのほうが良いはず。しかし、そもそもこの靴を買おうと思ったのは、デザイナー奥村靫正氏の履いていた牛革のプレーンタイプに魅せられたからなのだから、最初の一足は(すでに次を買う気になっている)それと同じものにすべきだと考え直した。奥村氏の手掛けた代表的な作品はこのブログに画像がまとまっている。


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しかし、いろいろなひとのブログや画像などを検索をしていると、どうも丸善で販売していた時代のものと、現行のものとでは若干デザインや、ひょっとすると使用している革が異なるような気もしていた。あるひとのブログで、「三交製靴を訪問した際、丸善からB級品扱いで返品されたものがいくつかあり、ちょうどいいサイズがあったので安く売ってもらった」という記事を読んでいたこともあり、もし丸善時代のものが残っているならそれも見せてもらえないかとお願いすると、棚からあれこれ出してくれた。「何しろ返品されたものなので箱の中で片方ずつサイズが違ったりして」とMさんは笑いながら、「でも今はつくっていないタイプのデザインもあるから、もしサイズが合うものがあれば」と言って探してくれた。結局、合うサイズがなかったので諦めたが、丸善時代のものと現行のものを比べても、黒の牛革のプレーンに関してはさほど差がないようにも思えた。

誤解のないように書いておくと、今回はジャストサイズのものがあったのでその場で購入できたが、基本的には在庫がある訳ではないので、注文を受けてから職人さんがつくりはじめる。そのため、少し時間がかかる。

いずれにしても、もし購入を望むひとがいたら、会社を訪問して試し履きをしてサイズや履き心地を確認したほうが良いと思う。なにしろ、普段27㎝のスニーカーを履いている人間のジャストが26㎝だったのだから。

くだんの切り抜きを持っていたのでご覧いただくと、「ああ、丸善さんでいちばん売れた時代ですね、この頃は。次から次へと注文が来て、つくってもつくっても追い付かない感じだったんですよ」とおっしゃっていた。1980年代の半ば、まさに日本がバブルへと向かう時代、丸の内界隈を闊歩するサラリーマンの足をがっちり支えていたのが「丸善のマナススルシューズ」だったのだろう。

「三交製靴のラギッドシューズ」と名は変わっても、靴づくりの確かな技術と「丈夫で長く履き続けることのできる靴をつくる」という精神は持続されている。かつては、憧れのデザイナーが履いている靴として認識していたが、今はこの「技術と精神が持続されている」ことに対する敬意のようなものが生まれている。今こそ、この靴を履くべき時なんじゃないか。これを履くことで、技術と精神の持続を促していけたら、などと言うとなにやら偉そうに聞こえるだろうが、そんな気持ちでいるのも事実だ。

たかが一足の靴の話でそこまで言う? 確かに。しかし、「たかが〇〇でそこまで」というのがこのブログの趣旨でもあり、自分の生き方の根幹でもある。

職人のつくった靴を下げ、浅草駅へと向かう僕の足取りは、心なしか誇らしげだ。よし、時間もちょうどいいし、観音裏の居酒屋にでも寄っていこうか。かんのん通りの店に行くなんざシロートさ。久しぶりに「ぬる燗」で一献もいいな。あらよっと。



※結局、「ぬる燗」は下水管の不具合とかでしばらく休業の貼り紙があり断念。そのまま浅草橋まで出て、ガード下周辺をうろつき、適当に入った店で青森の酒・陸奥八仙とあん肝と新じゃがの明太子ソースかけをいただいた。料理人はまだ若い息子、サーブはその母親だろうか。カウンターから丸見えの厨房が整理整頓されピカピカに磨きあげられている時点でプラス40点。お母さんのベタつかず、でも心ある接客でプラス60点、これだけですでに100点。さらに酒も料理も良かったので150点さしあげる。なんだかいろいろと「心あるもの」に触れた一日だったとさ。めちゃくちゃ歩きまわったのでヘトヘトだったが、心地よい疲労感。



まだクリームも塗っていない状態のラギッドシューズを一枚。実は今日くらいの雨の日に本領を発揮する靴ではある。めったにスーツは着ないので、普通にデニム(色落ちしていないもの)を軽くロールアップしたり、細身のホワイトデニム、くるぶし丈のパンツなどに合せるつもりだ。ソックスは白かグレーのコットン。スーツに合せてパンツの裾を靴にかぶせてしまうと、途端におじさん靴のようになってしまうのでないか。撮ってみてわかるのは、この靴は写真に写すのがとても難しい。どう撮っても現物のもつ質感や存在感、ましてや履き心地は素人にとてもは表現できない。写真で見ると「なんだ、ふつーのビジネスシューズじゃん」と思われる可能性が高い。履けば分かるさ!

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by sakurais3 | 2015-02-18 14:13

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