丸善のマナスルシューズ


長年、雑誌の切り抜きなど、さまざまな「紙もの」をストックし続けているファイルがある。通称ネタ帳と呼び、時間のある時などにパラパラと眺めながらイメージソースとして活用したりしているのだが、今日かなり古いファイルを眺めていたら、こんな切り抜きに目が止まった。



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YMO周辺のデザインがつとに有名なデザイナー・奥村靫正氏が掲載された雑誌の1ページ。どうやら『アンアン』のようなのだが、奥村氏のポートレイトから察するに相当昔のものであることは間違いない。さまざまな人がお気に入りの品を紹介するという趣旨のページなのだろう。ここで奥村氏は、「丸善のマナスルシューズ」を紹介し、写真のキャプションには「『丸善』のマナスルシューズを、はき続けている。今、2足めがまる3年たったけど、まだまだ平気。ロケなどで山を歩いてもビクともしないし、少々汚れても気にせずはいていられる。そんな気安さがある。」と記されている。

そして、本文では「でも、やっぱりむずかしいものだね、あかぬけるって。憧れるけど。あかぬけるためにはこう、と限定しちゃうと、限定しちゃうのがヤボ、みたいな部分もあるし。でも少なくとも、贅沢をつくして磨きがかかる、というものじゃあないだろうね」などと語っている。

なぜこのページを切り抜き、(おそらく20数年もの間)後生大事にとってあるのか。それは、自分にとってスターデザイナーであった奥村氏が愛用する「丸善のマナスルシューズ」に惹かれるものがあったからだと想像できる。ようするに、「いつかは僕も丸善で革靴を買うようなオトナの男になるのだ」と思っていたのだろう。しかし、いつの間にか「丸善で革靴を買う」という憧れは忘れ去られてしまい、今日この切り抜きを見るまで思い出すこともなかったのだから、まあ、その程度の憧れだったのだが。

しかし、数年前であれば、この写真を見てもあまりピンとこなかったのかもしれないが、今、まさにこういう何の変哲もなく、それでいて頑丈そうなプレーンな革靴が欲しい気分なのである。

おまえは洋服や靴について滔々と語るほど詳しいのか?それだけの金銭をつぎ込んでいるのか?と問われれば答えはノーだ。ファッション系のwebマガジンで定期的に執筆していたりするものの、書いているのはファッションとは一切関係のない内容だし、ファッションに詳しい訳でもなければ金銭をつぎ込んでいる訳でもない。流行のアイテムを身に付けようという気持ちもほぼない。

が、ひとは裸では外を歩けない。何かを身に付けなければならない以上、そこには快適性や機能性に対する評価やデザイン的な好みというものがおのずと発生してしまう。機嫌よく生活するためには、しかるべき服や靴やカバンをチョイスすることになり、ファストファッションであろうがそこには買う側のジャッジというものが生まれる。ファッションピープルだけがそのジャッジを行っているのではなく、一般的にいえばファッションの外側にいるように見える(自分のような)ひとであっても、だ。

稀に「さくらいさんっておしゃれですよね」とか「さくらいさんは僕にとっておしゃれのトレンドリーダーですよ」などと言ってくれる年下の知り合いがいたりする。もちろんお世辞に違いないだろうし、完全にかいかぶり過ぎだとは思うものの、そんなことを言われれば悪い気はしない。ファッションに詳しいひとからすればちゃんちゃらおかしい話だろうが、自分とて、しかるべき何かをチョイスしながら暮らしていることは間違いがなく、そういう人間が服や靴やカバンについて何かを語ったとしても、それほど滑稽なことではないようにも思う。どこそこのアレが美味しかったなどと、料理については専門家以外のひとたちも日常的に語りまくっているにも関わらず、ことファッションになると、「一部の特権的なひとたちだけしか語ってはいけない」という暗黙のルールのようなものがあるような気がする。一部の例外を除くすべての人間は服を着て靴を履いて外へ出ていくにも関わらず。

話があらぬ方へ向かっているが、つまり何が言いたいのかというと、この「丸善のマナスルシューズ、めっちゃ欲しい!」ということ。で、さっそくネットで調べてみると、なんと2012年をもって丸善では書籍・文具以外のアイテムの販売を中止しているというではないか。なんということだ。2年前だったら普通に買えたのか、と思うといやがうえにも購買欲は増すばかりだが、この「丸善のマナスルシューズ」なる靴、実は浅草の老舗靴メーカー「三交製靴」が作っていたものらしい。HPを見ると、くだんの奥村氏がレコメンドしていたものと同様のプレーントゥの革靴は「ラギッドシューズ」と名称を変え、今でも作られているようだ。(楽天でも取り扱っているらしい)。

奥村氏の記事には「写真のものは1万6000円」と記されているが、現行品は21600円。この記事が20数年前のものだとすると、価格は驚くほど変わっていない。そして、個人のブログなどを見ると、丸善時代から今も長年愛用し続けるヘビーユーザーも少なくないらしい。どうやらひとりの職人が手縫いで作り続けており、後継者もいないという。今買っておかなければ後悔しそうな気がする。


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by sakurais3 | 2015-01-31 00:27

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