Nikeを履いた芝大門・深夜食堂のher


〇月×日


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ひさしぶりにナイキのスニーカーを購入。ジャケット着用でも合うブラック&ブルーのインターナショナリストを。幅がかなり狭いのでハーフサイズ大きくて正解。ナイキといえばエアマックス90が人気だが、どうも靴ばかり目立つようで履く気がしない。できればブランドアイデンティティであるスウッシュすら目立たないほうが好ましいというひねくれものなので、このくらいがちょうどいい。見た目はローテクのままだが、履いてみるとクッショニングは進化しているようだ。





〇月×日


「ドラマのものさし」というタイトルでテレビドラマのレビューを連載(月12回更新)しているWebマガジン「フイナム」。番組改編期にはトピック的にインタビューを掲載したいという編集長のオーダーもあり、4月には大根仁氏に『まほろ駅前番外地』についてお聞きし、7月はタイミングを逸してしまい1回休み、そして今回10月スタートのドラマ絡みで『深夜食堂』のマスターこと小林薫さんにインタビューできることになった。


撮影は『DECOTORA』『東北』で知られる木村伊兵衛賞受賞の田附勝さん、ヘアメイクは小林さんをずっと担当している(井浦新なども)樅山敦さんという布陣。小林さん側のチェックでは原稿の直しゼロ、「いいインタビューだった」的なコメントを頂戴したと編集長経由で知り、素直に「それはよかったな」とホッとした次第。長年この仕事に携わってはいるものの、それほど自信満々にやっている訳でもないので、こうしたリアクションが励みになる。Webマガジンの特性を活かしてかなりのホリュームになっているが、読み応えはあると思うので、是非。


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http://www.houyhnhnm.jp/feature/009294.html



〇月×日


浜松町にほど近い芝大門で取材があり、終了後、編集者と別れてひとり散策。少し歩けば増上寺、東京タワーというエリアだが、企業も多いため仕事帰りのサラリーマン、OL狙いの飲食店も多く激戦区となっているものの、一本裏通りに入るとこぢんまりとした居酒屋や中華料理屋が点在し、猫がゆったり歩いていたりするゆるい雰囲気。しばらく歩き、ビルの中ほどにある居酒屋へ。


カウンターに案内されると、食材が大きなガラスケースの中に鎮座し、「番頭さん」といった風情のおっちゃんが壁の張り紙を指し「今日のおすすめはあちらになります」とアナウンスしてくれる。その日使う食材が客からも目視でき、カウンター越しに料理をする様も見えるから、店側もヘンなことはできない。こういう店は信頼できる。何を聞いても「(分かるひとに)聞いてきます」というバイトばかりがホールをうろつく店とは違う安心感がある。


座敷ではサラリーマン数人の騒々しくないオトナな宴席、テーブル席ではOLらしきふたり組が美味しそうにブリ大根をつついている。注文したのは、生ビール(エビス)と茶豆、出汁巻き玉子、あん肝、ふぐの一夜干し。ビールをふた口くらい飲んだタイミングで茶豆が出て、ほどなくして出汁巻き、日本酒に切り替える頃にあん肝、続いてふぐの一夜干しが出る。特別なものがあるわけではないが、ついあれもこれもと頼みたくなる「ちょうどいい品」が揃う。料理人の自己主張丸出しのドヤ顔の創作料理みたいなものはない。かゆいところに手が届く感じ、とでも言えばいいのか。


前述の番頭さん的ホール担当のおっちゃんの絶妙の間合も居心地の良さをつくる上で貢献している。グラスが空いたらすぐに「何かお持ちしますか」と聞くのではなく、こちらがメニューをひととおり眺め終わった頃合いで近くに来る。が、自分からは促さない。日本酒も特別なものはないが、新潟の能鷹の純米があったのでそれにする。「能ある鷹は爪を隠す」に由来する名が好きだ。


こういう店で写真を何枚も撮るのは無粋なので1枚だけ。ふぐの一夜干し。


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〇月×日


そう仕向けているわけでもないのだが、常に45つの媒体が同時に進行するという傾向がずっとつづいている。たいへんありがたい話ではあるものの、映画やドラマを観る&見る時間が少なくなるのは職業上きわめてマズい状況だ。


映画の日なので無理やりにでも何か観るぞと思っていると、徒歩で行ける場所にある唯一の映画館でなぜか『her 世界でひとつの彼女』がかかっていることを知り、かけつける。日によって上映時間が異なるという非常に使いづらい劇場で、いくつかスクリーンがある一応シネコンのテイなのだが、『her』がかかっていたのは試写室より席数の少ないスペースだった。座席はおそらく5列くらいしかなかったが、しかしこの映画を観るには最適な環境だった、と思う。


『マルコヴィッチの穴』のスパイク・ジョーンズが脚本・監督で、人工知能搭載のOSと恋に墜ちる中年男をホアキン・フェニックスが演じ、OSの声をスカーレット・ヨハンソンが演じるという程度の予備知識しか持たずに観たが、想像していたよりも遥かに良かった。ポスターには「感動の恋愛ドラマ」などと書かれていたが、確かに結果的にそういう話だとは言えるものの、基本的には「恋愛感情や他人との関わり合い、コミュニケーションとディスコミュニケーションをシニカルに描くコメディ」だろう。


舞台は近未来のLA。ニュースで中国とインドが統合するみたいなトピックが流れていたりすることからも分かるように、巨大なアジア勢力が台頭する社会は、いわゆるアメリカ的マッチョイズムが影を潜めているようにも見える。ホアキン演じる主人公セオドアは、さまざまな人々の手紙を代筆する仕事をしている(音声入力による手書き文字で!)が、この設定がまず効いている。彼は元々新聞のコラムを書くライターだったらしいが、誰かに成り代わって、そのひとの言いたいことを絶妙に文章化するという、ようするに「ひとの感情を推測して言語化する」ことを職業にしている。ところが、実生活では、嫁(『ドラゴンタトゥーの女』のルーニー・マーラ)とは離婚寸前で別居中、デートしたグイグイくる肉食系女とうまくいきそうになるも、直前の空気読まない発言でフラれるというなかなかのヘタレぶり。


しかし、いわゆる寂しいキモオタ中年男というわけではなく、住んでいる部屋はオシャレだし、同じマンションに元カノで今は友人関係の女は住んでいるし、なんだかんだ普通にモテるし、仕事の評価も高いし、同性の友人もいるインテリだ(なんとなく故・川勝正幸氏を彷彿とさせる)。しかし、ひとの気持を推し量り、具現化することを職業としているにも関わらず、目の前にいるひとの気持ちを察することができないフシがあり、それがこの男の人生を悶々とさせているようだ。


そんな男が、人工知能搭載で、自分のことをすべて理解し受け入れてくれるOSとやりとりするうちに恋愛的感情に陥っていったらどうなるか、というのが本作の設定だ。まあギャルゲーの超進化版というか、所詮バーチャルとはいえ、仕事のサポートからセックスの相手までしてくれる自分仕様にカスタマイズされた秘書のような存在にハマッていくひとがいても不思議ではないのだろう。


まるで人格をもっているように思え、しかも、さまざまな集合知によって日々進化していくOSサマンサは、セオドアにとって最高のパートナーのようだが(しかも声がスカヨハ)、肉体を持たないがゆえに「あること」が可能になってしまうことから一転して物語は悲劇へ。


アカデミー脚本賞を受賞したから凄いという訳ではなく、純粋にみて、とても良くできた脚本だと思う。1度観ただけではすべてを把握できないほど、セリフの情報量とそこから導かれる意図が多層的だ。ただし、頭でっかちにセリフに頼り過ぎるわけでもなく、すばらしい撮影や音楽によって世界観やメッセージを体感できるつくりになっている。


来月DVDBlu-rayが出るが、これは劇場で観ることができて良かった。



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by sakurais3 | 2014-11-02 14:32

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