『BRUTUS』松浦弥太郎の「男の一流品カタログ」


ひさしぶりに隅から隅まで雑誌を熟読した。


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『BRUTUS』最新号、松浦弥太郎の「男の一流品カタログ」。松浦氏の考える「新しい一流」たる品々をカタログ的に網羅しているのだが、本文からキャプションにいたるまで自身が書いているため、カタログの範疇を超えたエッセイ集に近い。編集に8ヶ月を費やしたというのも雑誌としては異例だ。


内容よりも先に価格の話をするのも無粋だが、通常の中綴じではなく背表紙が付く造本やカタログ部分の紙を変えるなどのつくりで定価680円のままというのがまず偉い。たとえばこれで1200円といわれても迷わず買うだろう。


松浦氏が選出した一流品80点のうち、今自分が所持しているものは皆無だ。かろうじて持っているのはMade In U.S.Aのニューバランスくらいだが、誌面で採り上げられているM2040ではなくM576のホワイトレザーと993のグレー。あ、あとはL.L BEANのトートバッグ。


しかし、ここで採り上げられているものを所持しているから一流の男だ、などと松浦氏は言っているわけではなく、「いいもの、本物を見る目をもっているかどうか」を問題にしているのだと思う。それがありさえすれば、自分の手許にあるかどうかはそれほど問題ではない。ないのだが、やはり手の届くところにそれがあり、眺め、触り、使うことではじめてそのモノとの対話が生まれる、というのも納得がいく話だ。


震災直後、どれだけモノを持っていても天災に遭ったらそれで終わり、などと厭世的な気分にもなったが、価値観や記憶というものもまたモノによってもたらされるわけで、たとえそのモノが失われたとしても、モノと対峙してきた時間や記憶は失われることはないはずだ。


世捨て人のように何もない無人島で暮らすことは自分には一生できない。かといって、常に最新のアイテムを追い続けるような生き方も御免だ。高価格だから優れているとは一概に言えないが、価値のあるものにお金と時間を使いたい。


そんなことを考えるひとにとって、この一冊は大きな指針になる。今こういうものを書いて嫌味な感じが一切しないひとというのは松浦氏くらいではないだろうか。放っておくと小山薫堂あたりが同じようなことをやりそうではあるが(すでにやっているかもだが)。



ここからは余談というか、すでにこのブログでも書いていることなので既読のひとは「またかよ」と思うかもしれないが、自分にとってはたいへん大切なできごとなので繰り返す。松浦氏には、まだ氏が『暮しの手帖』編集長ではない頃に取材ではじめてお会いした。帰り際に「実は仕事とは別にこんなものをつくっていまして…」と個人雑誌『リトル・マグ』を手渡した。その時点で2号まで出ていたが、手に取った2冊を松浦氏は紙質を確かめるように丁寧にめくり、「これはいい雑誌ですね」と言いながら、裏表紙で価格を確認し、「これで380円ですか。いや、立派ですよ」と頷いた。


松浦氏の書く文章も手掛ける書店COW BOOKSも好きだったので、手渡せたこと自体がうれしかったが、その直後、表参道で打ち合わせをしているとき、携帯に電話があった。「先ほどのリトル・マグ、COW BOOKSで置かせてもらえませんか。買い取りで各号10冊ずつ」と言われたときの感激は何と表現したらいいだろうか。まったくの手探りでつくったものがこんなかたちで認められるのだから、人生何があるかわからない。大袈裟に言えば、生きててよかったとすら思った。


この特集号を読んで、こんなひとに自分のつくったものをチョイスしてもらえたことは本当に宝物だとあらためて思う。


COW BOOKS南青山店で『リトル・マグ』は順調に売れていった。この店だけで各号100冊近く出たはずだ。もちろん店の力に依るところ大だったことは重々承知之介だ。3号が発行された頃、当時松浦氏が雑誌『装苑』で連載していたコラム「リトル・プレス・レビュー」で採り上げていただいたことも大きかったのだろう。店内のPOPには「文筆家のさくらい伸さんが手塩にかけてつくっている個人雑誌。雑誌本来の面白さが伝わってきます」などと書かれていて梨元さんとは違う意味で「キョーシュクです!」と汗をかいた。


『リトル・マグ』は2011年以降出せていない。おまえは何をやっているのかと問われるような気持ちだ。




by sakurais3 | 2014-08-17 14:18

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