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園子温が描くヒップホップ版『ウエストサイド物語』---『TOKYO TRIBE』


園子温監督の『TOKYO TRIBE』マスコミ最終試写に駆けつけた。


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公開は8月末なので、あまり具体的な内容には触れないでおくが、印象が薄れないうちにメモ的にまとめておこうと思う。


井上三太の『TOKYO TRIBE』を園子温が映画化すると聞いたときは、正直「ん?」という感じだった。というのも、園はセックス、バイオレンス、アクションについてはお手のものでも、ヒップホップやストリートカルチャーに造詣が深いひとではないはずだからだ。普通に考えると今こんなのを撮れるのは大根仁くらいではないのか、などと思った。


町山智浩がTBSラジオ「たまむすび」で同作を紹介している音源を聞いたら、園監督も最初は「オレ、ヒップホップとかストリートとか全然詳しくないんだけどなあ」とコボしていたというが、そこで苦肉の策(?)として思いついたのが、現役ラッパーをメインとサブのキャストに据え、ほぼすべてのセリフをラップにして、しかもリリックは本人たちにつくらせる(だいたいこんなことを言ってくれ、という指示はしたらしいが)という手法だった。


これは発明だと思う。全編にわたって四つ打ちのビートが鳴りつづけ、その上にラップやセリフが延々とカブされ、物語が進行していくのだが、オトナが無理して書いた若者セリフではなく、ラッパーが書いたリリックがそのままシーンの状況を説明するセリフになっているのでサムくない。この手法を思い付いた時点で、もう勝ったも同然だろう。


染谷将太がスコセッシ映画ばりにカメラ目線で物語のプロローグをラップし、ナビゲートしていく冒頭の長回しを目にした瞬間、「これはこういう映画なのだ」と力技で納得させられてしまう。


つまり、本作は、対立する不良グループの争いをミュージカルで描いた『ウエストサイド物語』のヒップホップ版になっているのだ。そして、アクションシーンをダンスと捉えると、どこかインド映画のようですらある。


僕自身ヒップホップにはさほど明るくないが、BCDMGが音楽を担当し、ラップ監修も付けることで、音楽的にその筋のひとたちが聴いてもオーケーなレベルになっている(と思われる)。


鈴木亮平が『花子とアン』の「村岡印刷さん」で得た名声をかなぐり捨てるかのように(こちらのほうが先に撮影していたのだろうが)全編Tバックで日本刀を振り回しながら大暴れする。このひとはどこか韓国の男優みたいな匂いがしますね。


『スターウォーズ』のジャバ・ザ・ハットみたいな竹内力のハチャメチャぶりやサイボーグかおりの破壊力も凄いのだが、なんといっても大注目は、スンミ役の清野奈名だ。『ピチレモン』の専属モデルでデビューし、最近では『WOOD JOB!』にも出演しているが、ボクシング、バク転、殺陣が特技というその身体能力がとにかくすばらしい。公開されたら、さぞや話題沸騰するに違いない。このひとを観るだけでも十分価値がある。




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ブクロ、シンヂュク、ムサシノクニなど、ここで描かれる近未来の東京の街は、「どこでもないどこか」であり、混沌とした東アジア共同体の一部として、退廃と活気が入り混じったエネルギーを噴き上げる。その造形は、『ブレードランナー』や『AKIRA』や『時計じかけのオレンジ』のイメージがコラージュされている。


途方もないエネルギーを詰め込んだ馬鹿映画という前作『地獄でなぜ悪い』の流れを汲む、これもまた壮大な馬鹿映画だ。観終わった直後はものすごく疲れたのだが、しばらくすると、なぜか生のエネルギーのようなものが沸いてくるから不思議だ。焼肉やホルモンをかっ食らったあとのように。








by sakurais3 | 2014-07-18 01:49

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