イラストレーターであり、エッセイ、小説の執筆でも知られる安西水丸さんが亡くなった。
水丸さん(面識はないけど、なんとなく『さん』付けにさせてください)といえば村上春樹との共作のイメージが強いため、亡くなったことを知らせるニュースでも必ずマクラに使われるほどなのだが、ぼくにとっての水丸さんは、「スタイルにおけるココロの師匠」だった。
長年、同じような格好をしているように見えて、サイジングやディティールには「今」の空気が感じられる。おそらく、同じタイプのものを小まめに買い足していたのだろう。いつ見ても同じような格好をしているが、よく見るときちんと選ばれたものを身につけている、というのがオトナの男のスタイルではないか、ということを水丸さんに教えられたような気がする。もちろん、自分はそんなふうには到底なれていないのだけれど。
アウターは、Leeの91-Bか191-LB。寒い季節は襟がコーデュロイになっていてライナーが付いた191-LBを、あたたかい季節には91-Bをユニフォームのように着用している。たいていフロントジップは閉めている。
ときどき、ヒッコリーストライプのカバーオールジャケットなども着る。
ボトムスはショットのチノパンが基本だが、最近は巷で見かけなくなったため、似たようなタイプのものを探して履いていたと思う。足もとはレッドウイングのオックスフォード。いわゆるブーツではなく短靴を履く理由は、「人の家や事務所に行ったとき、脱ぎ履きの際に玄関先でもたもたしたくない」からだという。「傘と靴だけはいいものを」とのポリシーがある、と雑誌『Free&Easy』でコメントをしている。
パーティーなど、きちんとした場にはギャルソンの三つボタンのジャケットを。インナーはノーアイロンのくしゃっとしたシャツを着て、その下にはヘンリーネックシャツ。メーカーはヘルスニットがお気に入り。
たとえば、浅草の飲み屋にいても、銀座のカレー屋にいても、青山のレストランにいても、鎌倉のバーにいても、違和感のないスタイル。
連載をもっていた住宅雑誌『チルチンびと』の最新号では、鎌倉山にあるご自身のアトリエが紹介されている。
青山に仕事場があり、その近くに住まいがあり、鎌倉山にアトリエがある。青山の仕事場にはスノードームコレクションが、鎌倉山のアトリエには民芸が置かれている。
映画にもくわしく、最近は小山薫堂氏とともに映画を紹介する番組もやっていたくらいだが、いわゆるシネフィルという感じではなく、ごく自然体で映画を観る時間そのものを楽しんでいたような印象がある。「日曜日の一番最初の上映なんか好きです。みんな休みだから寝てるでしょう。そういう時間に映画館に行って、コーヒーとパンフレットを買って、座席に座って映画が始まるのを待つ時の幸せ感。あれは僕の最も幸せな時間の三つのうちの一つです」(『Switch』2013.10月号)
まあ、あとの二つが気になるところだが、おそらくカレー屋でカレーが来るのを待っている時間とか、居酒屋で熱燗を待つ時間あたりだろうか。
憧れの、ぼくの伯父さん。