出張先で常連しかいないような居酒屋で肩身が狭くならずに飲む方法
2013年 09月 16日
仙台駅周辺はとにかく人が多く、およそ旅情などというものは感じられない。
しかし、大通りから少し入り、適当に歩いていると、地元のひとたちの生活の匂いのする界隈に行き当る。
マルシェが賑わうまちは、それだけで好きになり、住みたくなる。
そして、地元のひとしか歩かないようなエリアで、常連客しか来ないような居酒屋を見つける。中の様子はまったく分からないが、外に出されたメニューや店構えから、「ここはいいんじゃないか」と鼻を利かせる。他のことはさておき、知らないまちでいい飲み屋を見つける嗅覚だけは自信がある。
カウンター数席、小上がり数席という小ていな店の片隅で、常連の邪魔にならないように飲む。
まず、出てきたお通しからして、派手さはないものの、酒がすすみそうなものばかりだ。この店は当たりだった。
手書きの「本日のおすすめ」から、何を頼めば費用対効果の点から外れがないのかを吟味する。吟味というか、これは推理に近い。「おすすめは何ですか」なんて野暮なことを聞かずに頼んだ品が、店側がまさに今日食べてもらいたいものだったりすると、一目置かれることになる。メニューに書いてあるからと言って、季節感を無視してカニなんか頼むと当然白い目で見られる。
ここは店と客との無言の勝負なのだ。
おすすめを聞いていいのは刺身くらいだろう。「今日、刺身は何がありますか?」「今日は〇〇のいいのが入ってます」「じゃあそれください」 みたいな。
メニューの金華さばの刺身が目にとまる。これはおそらく、酢で〆てあるに違いない。単なる刺身よりも、ひと手間かけたものにこそ、その店の腕が見える。
「あのー、この金華さばの刺身というのは、酢〆ですか?」と聞くと「ええ、軽く酢で〆てます」と厨房の店主が頷き、「親方の酢〆は評判いいんですよ」とサーブをする女性(店主の娘か)がフォローする。
そうとなれば頼まない手はない。「それって盛り合わせにも入りますか」「ええ、入りますよ」「じゃあ、盛り合わせでお願いします」
宮城といえば、ホヤ。
こうなると、単に「枝豆」としか書いていないメニューも、何かあるのではないかと思える。注文を受けてから茹で上げた枝豆がカウンターに運ばれ、ひと口つまむと、「お、これは茶豆ですね!」と思わず声が出た。「はい、もうぼちぼち終わりなんですが、案外終わりかけのほうが香りがいいんですよね」と店主。
これはあれだ、何食ってもうまいパターンだ。
新幹線が出る時間までの2時間あまり。地元の常連客しかいない店の片隅で、しみじみと杯を傾ける。
知らないまちで飲む際のポイントとしては、あくまでも常連客を優先し、馴染みらしき客が来たら席を詰めるくらいのことは店に促される前に進んでする。
そして、むっつり飲むのではなく、適度に店主やスタッフと会話をする。しかし、ウンチクや自慢めいた話はしない。
いくら日本酒が好きだからといって、メニューにない酒を「〇〇は置いてないんですか」などと言って困らせない。あるものの中から選ぶべし。
むやみに長居しない。そして、帰り際には「ごちそうさまでした。おいしかったです。また来ます」とあいさつは明瞭に。
次に来る機会はないとしても、去り際はうつくしく。
宮城のラーメンは、味噌。