大家も住人もしあわせになるってどういうことだろう。

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あまり仕事の宣伝めいたことを書くと読んでいる人はシラケると思うのだが、サーセン!少しだけ。

一冊まるごと構成・執筆に携わった書籍「大家も住人もしあわせになる賃貸住宅のつくり方」(学研)が7月末に発売される。

10年ぶりくらいにがっちり組んで仕事をすることになった編集Sさんとは、この10年の間、ほぼ飲み屋でしか会ってこなかったので、なにやら感慨もある。やはり編集者と書き手は仕事をしてなんぼだろう。数多の書き手のなかから選んでくれたSさんには感謝したい。

著者の青木純さんは、東池袋の賃貸マンション「ロイヤルアネックス」などを持つ37歳の若きオーナー、つまり大家さん。青木さんの話を何度も聞きに行き、そこで語られたことばを一冊の本として構成、文章化していったのだが、ということは、この本は賃貸マンションのオーナーによるマンション経営のノウハウ本なのか、と思うかもしれない。が、実際はちょっと、いやだいぶ違うものになっている。

というのも、青木さんのマンションでは、賃貸にも関わらず、およそ持ち家でしかできそうもないことが実現できるのだ。住人が膨大なサンプルの中から好みの色・柄の壁紙を選べるカスタマイズなど序の口、間取りや内装を一から住み手と大家とデザイナーとで決めていくオーダーメイドまで、ほとんど賃貸マンションの枠組みを飛び越えたサービスを提供しているのだ。それでいて、家賃も高くない。

なぜ大家が率先してこんなことをやり始めたのか。築25年のマンションは老朽化が進み、年々空室が目立ち始めていた。青木さんが2011年1月に家業の大家業を継いだ時点でかなりヤバい状況だったのだが、そんな矢先、東日本大震災が起こり、アジアの留学生などが激減。空室率が最大27%にまでなってしまったのだ。大家になったわずか3ヶ月後に。

「おい、どーすんだ俺!」状態で思い至ったのが、「自分だったらどんな賃貸マンションに住みたいか」という、いわば原点回帰。そこから、カスタマイズやオーダーメイド、マンション内シェアハウスといったアイデアを次々に実現し、いまや空室待ちの行列が120人にものぼる人気物件になってしまったのだ。

当然、メディアも放っておくはずがなく、雑誌やテレビでもこのユニークなマンションは多数採り上げられ、青木さんのもとには全国から講演等の依頼も殺到するようになるのだが、青木さん自身の著書としてはこれがはじめてとなる。

もちろん、空室に頭を抱える大家さんが参考にすべきアイデアも網羅されているが、執筆しながらずっと考えていたのは、今の、あるいはこれからの賃貸マンション=集合住宅のあり方とはなんぞや、ということだった。

本書でもたびたび「昔の長屋のような」というフレーズが登場するのだが、現代版の長屋的コミュニティというべきものが、これからの賃貸住宅には求められるんじゃないか。いや、それはマンション内にとどまらず、町へと広がり、地域のコミュニティとも結びつくことが可能なんじゃないか。そして、それは田舎の集落のような閉鎖空間における過干渉とは異なる、もっとスマートなむすびつきだ。なにしろFacebookがマンション内回覧板として機能しているのだから。

そうした提言の書としても本書は読むことができる。というか、そういう読み方もできるように書いている。

あるいは、大家さんに限らず、家業を継いだはいいが、たちまち苦境に立たされてしまった若き二代目、三代目に向けた「発想の転換」「苦境からの脱却」を促す思想書としても読むことができるだろう。

あるいは、青木さんのマンションのオーダーメイドやマンション内シェアハウスの内装デザインを手掛けるのは、女性に絶大な人気を誇るデザイナー集団「夏水組」なので、内装デザインやリノベーションに関心のある人たちにも響くのではないかと思う。

もちろん、青木純というひとりの人物のライフストーリーとしても読むことができる。

書きながら重視したのは、実用書やノウハウ本にありがちな事務的で無機質な文章ではなく、ひとつの物語として、ワクワクしながら読むことができるようにするということ。

というように、実用書のふりをして、実は多様な読み方が可能な一冊になっている。出版社サイドの想定したタイトルは、もっとベタに「築25年の賃貸マンションで行列をつくる方法」「行列のできる賃貸マンションのつくり方」といったものだったのだが、大家だけでなく住み手側にもアピールすべきだとの思いから、「大家も住人もしあわせになる」というフレーズを推した。「大家も住人もしあわせになるってどういうことだろう」と不思議に思ってもらえたら成功だろう。

青木さんの取り組みは、日本の賃貸住宅をもっと楽しい場所にしたいという思いからスタートしているのだが、それがたんなる夢物語や理想論ではないことが、これを読んでもらえばわかるんじゃないかと思う。

「大家はエンターテイメント業だし、文化をつくることもできる」というのが青木さんの持論なのだが、毛玉のついたカーディガンにループタイ、できるだけ入居者と関わらず家賃だけいただきますよという旧態依然とした大家さん像が覆されることだけは間違いない。

暮しとは、デザインとは、コミュニティとは、仕事とは-----。さまざまな角度から読むことができる本だと思うので、興味のある方はぜひ手に取ってみてほしい。



夏はカレー。
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by sakurais3 | 2013-07-27 14:17

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