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湯気のむこう

先日「インタビュー納め」などと書いたら、急遽依頼があり、あしたもまた都内某社でインタビュー。くりすますとかくりとりすとかいってる場合ぢゃないのである。下ネタかよ。

まぁ、さすがにあしたでインタビュー納めになるとおもわれるが、年内もぎりぎりまで原稿書きがあるので、仕事納めとは、まだいかない。

最近、近所の飲み屋で飲んでいるとき、かつていろんな店でバイトをしていたコたちに偶然会うことがやらと多い。大手企業に就職してがんばってリーマンやってる男子からは「オレ、さくらいさんのメアド知らないんですよ。教えてもらっていいスか?」と言われ、最近彼氏ができたという女子からはいろいろとソッチ方面の相談をされ、別の女子からは「さっくらいさんひっさしぶりっ。隣いいですかぁ?」と言われたりと、ここ1週間でなんだかんだで5、6人から声をかけられた。おそらく、たまたま飲み会が増える時期ということなのだと思われるが、かつていろんな店で顔見知りだったコらから、彼らが店を辞め、違うフィールドに移ってからもこうして声をかけてもらい、近況なんぞ知らされるというのはなにやらうれしい。卒業生に声をかけられる学校の先生は、ひょっとするとこんな気分なのかしらんなどと想像しながら飲むビールは、いつもよりほろ苦く。もちろん、何を教えた訳でもないので、先生と教え子の関係とは程遠い訳だが。

かつて、資生堂のデザイナーとして数々の広告デザインに関わり、今では居酒屋評論家としての側面がクローズアップされる太田和彦氏の持論は、「居酒屋は、結局人である」ということ。人というのは、店主や店員のみならず、そこに集まる客も含めての人である。「どんなに銘酒を出しても、それは誰かがつくったものを仕入れたにすぎない。結局、飲み屋に集う我々が、もう一度あの店に行きたいと思うのは、極端に言えば、酒でも料理でもなく、人が醸し出す空気に触れるためなのだ」という論旨のことをいつも書いていて、自分もこの考えには大きな共感を抱いてかなりの月日が経つ。

指先がかじかむほど冷えた晩、両手をコートのポケットに突っ込んだまま、ある店ののれんの前で立ち止まる。ガラス戸から店内をのぞくと、お燗をつける鍋が湯気をあげている。カウンターの隅に、客がひとり。新聞を読みながら徳利を傾けている。その側にはイカと里芋の煮物の小鉢かなんかが置いてある。まったくの一見だが、ちょっと入ってみるか。そう思い、カラカラと引戸を開けると、店主と目が合う。「らっしゃい」と素っ気ない挨拶だが、目が笑っていて、一見さんお断りの雰囲気はない。

カウンターの中ほどに座り、熱燗を注文する。壁のメニューにポテトサラダとあるのを見つけ、それも一緒に頼む。新聞を読んでいる常連客が、店主に向かって「民主党も、結局増税だね」などとつぶやくと、店主も「ああ、まぁ誰がやってもそんなに変わらんってことですか」などと控えめに話を受ける。ボリュームをしぼったラジオは、AMのNHKに周波数を合わせているようだ。くぐもった音で、リスナーの投稿を淡々と読み上げるアナウンサー。

ほどなくして、店主から熱燗の徳利と御猪口をカウンター越しに手渡される。とくとくとく。御猪口になみなみと酒を注ぐと、ほのかに湯気があがる。酒を口に含む。まるで内臓を温泉に浸けたように、あたたかさが全身に染みわたる。嗚呼。ポテトサラダと熱燗は、なぜこうも合うのだろうか。などとぼんやり考えていると、店主が「これ、つくりすぎちゃったんで、よかったらどうぞ。イカの塩辛」などと言いながら、おもむろに小鉢を差し出す。・・・・

というような状況があったとして(あくまでもイメージです)、そこで出される酒がたとえ月桂冠だろうが大関だろうが、んなこたぁどうでもいいのである。そりゃあ、うまい酒が出てくるにこしたことはないが、人が飲み屋に行く理由は、それだけではない。ということを、太田氏も書いているし、自分もそう思う。そして、店の空気は、一朝一夕にはつくれない。

排他的でなく、べたつかず。それが、理想の飲み屋だと思う。

ぜんっぜんクリスマスらしい話題でなくてスマン。
by sakurais3 | 2009-12-24 15:04 | 雑記

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