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すぐそこの旅

ここ1、2週間というもの、「24時間開いてるスーパーの向かいにあたらしく出来た魚居酒屋にはもう行きました?」と、人から聞かれること数回。まだ行っていない、というかそんな店が出来たことすら知らなかった、と言うと意外そうな顔をされるので、なにやら気になってさっそく足を運んでみることに。

薄暗いの店内は、外から見るよりもずっと広々としている。個室系ではなく、フラットなスペースに堀炬燵風の座席が並び、ついたてなども特にない。カウンターに座ろうと思ったのだが、入口でブーツの紐をほどいている間に(靴を脱いで上がる店です)、あとから来たオヤジ客に先を越されてしまった。「テーブルへどうぞ」と、店長らしき感じの良さそうな男が促すので、2名掛けの席に座る。

エビスと黒エビスの生があったのでハーフ&ハーフを頼みつつ、フードのメニューをじっくり眺める。何を隠そう、自分はメニューマニアである。特に、はじめて入った店でメニューを眺めるのは、とても楽しい。メニューから、その店のウリやヤル気や客への態度を読み取るのである。つまり、行間を読むのだ。

まず、ヒラメの刺身、カキフライ、う巻き(うなぎ入りだし巻きたまご)を頼む。価格も適正で、味も量も盛り付けもなかなかのもの。待たせることもなく、かといって注文した品がいっぺんに出て来てどれから食べていいのか分からないということもなく、的確な間で届く。ヒラメにはちゃんとえんがわも付いている。

お通しという名のテーブルチャージがない点もポイントが高い。そもそもバー以外の店でチャージをとる店が好きではない。お通しで稼ぐなんてことはせずに、その分、一品でも多く料理を頼んでもらうべきではないかと常々思っている人間としては、こういう店はうれしい。メニューを眺めていると、これも食べたいあれも食べたいという気になり、価格も適正なのでつい多めに頼んでしまうため、お通し代を払っても同じような気もするのだが、好き好んで注文している品だから納得がいくというものだ。

日本酒はそれほど特別なものはないが、本日のおすすめが出羽桜だったので一合もらう。メニューには明記されていないが、芳香からして純米吟醸だろう。

ふと、先を越してカウンターに陣取ったひとり客のオヤジの姿が目に入る。俳優の故・渡辺文雄(from「遠くへ行きたい」)に似た風貌で、2、3品をつまみに静かに焼酎を飲んでいる。ヒラメの刺身とカキフライがテーブルに乗っているのが見える。自分とカブッているな、と思い、見るともなしに見ていると、そこに穴子の寿司が届く。自分もそれをシメに注文しようと考えていたところだったので、そこまでカブるのも何やらしゃくだったが、この見知らぬオヤジと同じでもいいかな、と思わせる何かがあった。

穴子の寿司は定番メニューのようだが、その日のおすすめメニューに穴子の白焼きと天ぷらがあったので、おそらく鮮度のいいものが入っているに違いないと読んだわけだが、そのオヤジもおそらく同じ読みをしたのではないか。

そして、テーブルに運ばれてきた穴子の寿司は、じつにふっくらとやらわかく、うまかった。オヤジと同じにして、正解だったわけだ。

まったく面識もないし、二度と会うこともないだろう。会話すら交わしていないのだから、一期一会とすら言えない。いわば、メニューを通して無言の会話をしたようなもの。

などと考えていて、ふと気づく。そうだ、これは、旅先の飲み屋でひとり飲んでいるときの気分と同質のものだ。

誰も、自分のことを知らない。自分も、誰のことも知らない。けれど、そこには、あるやさしい気配が漂っている。旅先の飲み屋に漂う、あの独特の気配というもの。活気のある店の片隅で、疎外されるわけでもいじられるわけでもなく、ぽんと佇むあの感覚。

そんなことを考えていたら、どこか旅へ出たくなった。
まさに、「遠くへ行きたい」だ。


帰り際、店長らしき男といろいろ話をしていたら、名刺を差し出された。そこで吉祥寺や下北などにも飲食店を構える会社が運営する店だということが判明。ある店には以前行ったことがあり、なるほどなぁと妙に納得をしてしまった。

あれこれ食べたなと思ったが、料金は3000円程度。平日は深夜3時まで、週末は朝5時までやっているという。うーん、こんな裏通りで大丈夫なんでしょうか。
by sakurais3 | 2009-11-05 01:47 | 雑記

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