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Buy & Buy


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わたくし、「お買い物のいいわけ」をするほどお買い物をするわけでもなく、「僕の散財日記」を記すほど散財しているわけでもなく、「shopping addict」を自認するほど買い物中毒でもないので、「自分が最近買った物」をつらつらと書き連ねたところで何か意味があるのだろうかという気もするのだが、ここで書きたいのは、何も戦利品自慢でもなければ、いい物を安く手に入れたぜ自慢でもなく、自分がその物とどのようにして出会い、何に惹かれて購入したのか、そして、買った物とどのように付き合っているのか、といったストーリーであり、ほぼ偶然のような物との出会いが自分の日常を少しだけ楽しくしてくれている、というような話だ。


何かを買う時、誰かの意見やレコメンドを参考にすることもあるだろう。私もおそらくそのようにして買い物をしているのだと思う。しかし、やれマストバイだワーストバイだ、これはコスパがいいから買っておけ、これは買ってはいけないといった言説に従順すぎると、自分の感覚で物を選ぶことをしなくなり、その結果、物との出会いを限定してしまうことになりかねない。まずはその物を手に取り、ちゃんと見て、着てみる。そして、自分とその物とのマッチングを瞬時に、真剣に問うてみるべきだ。手持ちのアイテムと照らし合わせ、これはあれに合いそうだ、などと脳内でシミュレーションをする。普段選ばない色やかたちでも、ある日ふと手に取り、着てみた時、何かしっくりくるということがある。それは自分の感覚が少しだけ以前と変わっている証拠かもしれないし、自分の容貌が以前と変わってきたのかもしれない。いずれにせよ、マストバイ・ワーストバイの情報に惑わされず、その「しっくりくる感覚」を大切にしたい。


時計の針を少しだけ巻き戻して10月から。体育の日の三連休、思い立って近くの県に日帰りで旅に出ることにした。旅が好きと言いながらも、いざとなると億劫になるのは、日程を調整したり、荷造りをするのが面倒だからだ。特にひとと行く場合はある程度前から予定を組んでおかなければならないが、そもそも直前まで仕事のスケジュールが不確定という職業柄、なかなかままならないのが現実である。世の中には荷造りが好きでたまらないというひともいるのかもしれないが、私の場合、心配性ゆえ「これも持っていくべきか」「あれも必要になりそうだ」などと、なまじ出発までの時間があればむやみに悩むことになる。なんなら、その土地の気候に合わせて新しい服まで買おうとするから困る。


だったら、思い立ったその日に旅に出たらどうだろう。宿だけスマホで押さえ、あとはクレカ付きSuicaがあればなんとでもなる。一泊であれば下着なんてコンビニで買えばいい。準備の時間がないから荷造りもできないし、する必要もない。というわけで、その日の午後思い立ち、小さなショルダーバッグひとつで一泊の旅に出た。その時、肩から下げていたのは、はるか昔に無印良品で買ったベージュのキャンバス×茶レザーのミニショルダー。財布、スマホ、イヤホンを入れ、分厚くなければ書籍一冊は入る縦長のかたちで、しばらく使わずに放置していたが、ここ最近、茶やオリーブの服を着ることが多くなったため復活したことは以前にも書いた。コンパクトながらも必要な物が入り、ほぼ手ぶら感覚なので移動も楽だ

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結論からいえば、このバッグひとつに収まる物だけで不都合は全くなかった。事前の準備が必要のない旅が、これほど身軽で気楽なものだとは。辺境に行くわけでもなければ、準備なんて実はほとんど必要ないのだ。旅の話をしているとそれだけで終わってしまいそうだが、この旅でお土産に買ったのがARCOLLETTA PADRONE(アルコレッタ・パドローネ)の茶レザーのダービーシューズ。たまたま入った革製品や小物を扱う雑貨店のセール品の棚に一足だけ置かれていた。



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PADRONEの靴はビームスなどで扱っているので目にしたことはあったが、つま先と踵に芯が入っておらず、ソールも薄く、いかにも華奢なシルエットで、セルジュ・ゲンスブールが愛用していたことでもおなじみレペットのような靴だという印象があり、好きなひとは好きそうだが自分が履くような物ではないと思っていた。


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しかし、なめした茶の革がいかにもなめらかで上質そうだったし、一足だけ残った品はマイサイズの41だ。おそらく女性客の多い店だから、このサイズは売れなかったのだろう。試しに履いてみたところ、あまりにもジャストサイズ、あまりにも柔らかい革が足全体を包み込むようにフィットする。女性店員が、「やっとサイズの合うひとが来てくれました」などと言う。まさか旅先で革靴を買うことになるとは思ってもみなかったが、これはもう運命だと信じて買うことにした。勝手にシンデレラ。旅のお土産として食べ物や酒ではなく革靴を下げて新幹線に乗るというのも不思議な体験だが、悪くない。この靴を履くたびに、旅のことを思い出すだろう。


あとからネットで調べたら定価で2万円ちょいするらしいが、それが税込9400円だったので、およそ半額で購入できたことになる。内側まですべて革、しっかりしたつくりのルームシューズのような印象もあるが、ガシガシ歩いても疲れ知らず、レザーソールは交換もできるらしい。つま先が反り返ったかたちが特徴的で、これが独特の歩きやすさを実現している(歩く時、つま先を地面に引っ掛ける心配もない)。踵に芯が入っていないためフィット感が心配になるものの、まったく問題なく、踵が浮くこともない。軽い、やわらかい、でも歩きやすい。革靴はこうじゃなきゃいけないという固定概念を覆す靴。


秋冬の服にもマッチするので、このところ出番も多い(ヌメ革にレザーソールなので、さすがに雨の日に履くのは躊躇するが)。手入れは時々デリケートクリームかアニリンカーフクリームを薄く塗るくらいでいいようだ。PADRONEは、土屋鞄や高級ランドセルの大峡製鞄などがあるものづくりの街・足立区に社を構える有限会社ミウラのオリジナルブランドである。コム・デ・ギャルソンの靴をつくっていたこともある会社らしいが、ARCOLLETTAは、PADRONEのカジュアル版という位置づけで、サンダルなど、より気軽に履けるアイテムを揃えているようだ。


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靴といえば、これまた偶然の出会いで最近もう一足加わったのがクラークスのデザートブーツである。近所の公園で開かれていたフリマ(というよりバザーと呼んだほうがしっくりくる)をひやかしていた時のこと。「どうせたいした物は出てな…ん!?」と思わず二度見してしまったのだが、十数年前よく履いていたクラークスのこげ茶のデザートブーツが無造作にダンボールの中に転がっていたのである。さんざん履き、クレープソールがすり減りすぎたため処分してしまったのだが、しかるべき店でソールを交換すればよかったと今ごろになって後悔していたところだった。その靴を手に取ると、これまたマイサイズ。そんなに私に靴を買わせてどうするつもり? 念のため履いてみたら、ほら、ぴったり。うーん、困った。いや、本当は別に困らない。なぜなら値札に2000円と書かれていたから。2万円じゃなくて、2千円。いま定価でクラークスのデザートブーツを買うと2万円以上する。やっぱりこれも運命だ、運命も安くなったもんだ、一週間に十日来いだこのやろう、とばかりに逆上買い。親戚の叔父さんが履いていたものだと売っていた女性が話してくれた。踵が少し減ってはいるものの、内側も含めてダメージはほとんどない。中古にありがちな妙な匂いもなし。持ち主が丁寧に履いていた様子が伺える。


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これもまた、買って大正解だった。今季、ユニクロ・イネスのコーデュロイジャケットやユニクロ&JWアンダーソンのキルティングジャケットなど、オリーブのアウターを着ることが多いため、このこげ茶のデザートブーツが抜群に合う。さらに、こんなに歩きやすかったっけ?な履き心地。あたらしく買ったというより、10数年ぶりにクラークスが手元に戻ってきた感覚だ。強いていえば紐がヤレているのが気になるので、適当なものがあれば交換しようと思う。ユニクロのヴィンテージレギュラーフィットダメージチノのベージュとも相性が良い。このチノ、あまりにかたちが気に入って愛用しているので、ダメージではない普通の濃いベージュも買おうと思っている。


昨年、再発されたTIMEXサファリとクラークス。この組み合われも実にレトロ。いや、レトロではなく、クラシックだ。


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枯れ葉とクラークス。季節や風景に溶け込む靴と服が好きだ。


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ユニクロでここ最近買った物としては、ユニクロ&JWアンダーソンのウールブレンドキルティングジャケット・ダークグリーン、ラムジャカードクルーネックセーター・グレー、エクストラファインコットンブロードシャツ・ストライプの3点である。いずれも発売当初から目を付けていたものだが、一週間ほど期間限定価格になったのを機に購入した。その期間を過ぎて今はまた定価に戻っているので、何事もタイミングが大切だ(「この世で一番肝心なのは素敵なタイミング」と坂本九も歌っていた)12月に入るあたりで一斉に値下げするのだろうが、まさに気候的には今着たい物なので、値下げのタイミングに買って良かった。キルティングジャケットは定価から2000円も下がっていたのだから。


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ドローイングTシャツと同様、19世紀に活躍した彫刻家、アンリ・ゴーディエ・ブルゼスカの魚の絵をモチーフにしたラムジャカートセーターは、黒もあるが、ファーストインプレッションでグレーがピンときた。ストライプのコットンブロードシャツとの相性は想像通り抜群だ。このセーター、「何の絵かよくわからないけどかわいい」「とぼけた魚のイラストがいい味出してる」みたいな感じでデザイン的には評判がいいが(何の絵かわからなければ調べればいいのにと思うが、そういうひとは少ないのだろう)、一方「チクチクする」「質が悪すぎる」とネガティブな声も多いらしい。が、本当にそうだろうか。基本的には私は下に長袖のシャツを着るのでチクチク感も何もないのだが、そりゃあカシミヤなんかと比較すれば肌触りはなめらかではないと思うものの、ざっくりして暖かいのがラムセーターの特色だろうし、絵柄の部分だけジャカート織りになった凝ったつくりで期間限定価格1990円ならば何の文句もあるまい。

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ちなみに私はMサイズだと、やや着丈が短く感じられたので、Lサイズを買い、裏返してネットに入れてエマールで手洗いし、ちょうどいいサイズ感にした。気持ちふっくらした感じもするので、着心地はまったく問題がない。この服に限らず、やれデザインや素材は悪くないもののボタンが安っぽいだの生地の落ち感がいいの悪いの、どこぞで聞きかじったフレーズでユニクロの服を批判するひとが多過ぎる。もっと自分で着た時の感覚を大切にすべきだと思う。マストバイもワーストバイもない。自分が気に入って買い、長く着続けられるものがベストバイだ。


ストライプのブロードシャツは、単体で見ると地味だが、セーターのインナーとして着ることを想定して購入。ギンガムチェックと同様、切り替えしのパターンが絶妙でテーラードジャケットの下に着ても収まりがよい。


ウールブレンドのキルティングジャケットはかなり暖かく、11月に入ってもこのジャケットにラムセーターを着ると日によっては暑いくらいなので、まだ当分は使えそうだ。「ウールブレンドなんてたいして毛も入ってないし使えない」みたいなことを言うひともいるが、キルティングの構造も手伝ってか、かなり暖かい。極寒の地は別にして、外の気温に耐えられ、かつ電車や建物内でもむやみに暑くならないくらいが都市部の生活ではちょうどよい。脇の下にベンチレーションホール(通気口)があるのも熱を逃がすのに多少役立っているのだろう。


オリーブや茶、ベージュの服を着る場合、色のトーンにもよるが、やはり靴やバッグも黒ではなく同系色にしたいものだ。数年前に買った茶レザーのトートバッグはいまだに愛用しているが、ハンドルの長さが微妙なので、秋冬の服だと肩に掛けづらく、といって手さげにするとやや長い。黒であれば今年の頭に買ったL.L.Beanのトート(東急プラザ銀座店一周年記念モデル)があるのだが、そうだ、白ベースのオーソドックスなトートを買えばいいのかと思い、久しぶりにL.L.Beanの公式サイトを覗いてみたところ、変わった物を見つけた。L.L.Beanのアイコン的アイテムであるビーンブーツをそのまま車にしたキャンペーンカー・ブーツモービルが今日本全国を横断中らしいのだが、それを刺繍した限定トートが出ていたのだ。間抜けな感じがかわいいし、コーデュロイジャケットにニットタイといういで立ちにこのトートを持ったらバランス的にちょうどよいのではないかと思いついた。事情を知らないひとが見たら何の刺繍だか分からないというのもまたよい。


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ネットでは白ボディ×青ハンドル、白ボディ×迷彩ハンドルしか売られていないようだが、検索すると白ボディ×緑ハンドルもあるらしく、この刺繍の色味にはそちらのほうが合う。どうやら吉祥寺店には置いてあるようなので店舗に立ち寄った。東急プラザ銀座店一周年記念モデルを購入したのもこの店だった。特にアウトドア人間でもないので、訪れるのはその時(今年の1)以来である。サイトにある10%引きのクーポンもしっかり利用して購入。


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吉祥寺店にはモノグラムを刺繍する専用のミシンが店舗にあり、銀座トートを買った時はその場で入れてもらったのだが、今回は、刺繍自体にインパクトがあるのと、気の利いたワードが特に思い浮かばなかったこともあってパスした(自分のイニシャルを入れるのもなんだかバカバカしい気がするので)。写真では分かりづらいのだが、実物の刺繍は安っぽさがなく、なかなかいい味を醸し出している。先日、電車の座席で膝の上にこのバッグを置いていたら、前に立っていた女児が「ブーブーのかばん、かわいい」と隣の母親にささやいていた。たぶん褒められたのだと思う。ブーブーのかばん…。いや、間違ってはいない。主にファッション誌で仕事をしているという初対面のカメラマンにも「そのL.L.Bean、めちゃくちゃかわいいですね」と褒められた。こういう声には素直に喜ぶようにしている。我ながら単純だ。


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しかし、ユニクロ&JWアンダーソンのダークグリーンのキルティングジャケットには茶系の靴やバッグしか合わないと思い込んでいたが、たまたま雨の日に黒を合わせてみたら案外悪くなかった。何事も先入観で判断するべきではないな、と思う。いろいろ試して、違うなと思えばやめればいいし、あれ、意外と合うなと思えば取り入れればいい。絶対的なルールやセオリーがあるわけではないと思う。キルティングジャケットと無印良品のアーガイル柄セーター、Uniqlo Uの2016AWコットンツイルイージーパンツ、丸善マナスルシューズ、工房HOSONOのマガジントート。これもマイ・クラシック。


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眼鏡も最近新調した。ここ78JINSを利用する機会が多い。眼鏡は顔に最も近い物だけに服よりもさらにその都度似合う、似合わないが変わるアイテムなので、年に1度は新調してもよいのではないかと思っている。前に使っていた眼鏡も別に処分するわけではないので、場合によってはまたそちらに戻ることもあるし、日によって替えることもできる。髪型や容貌の変化とも密接に関係のある物なので、冷静かつ客観的に判断したい。一番よいのはパートナーなど身近なひとの意見を聞くことだろう。服については、実は身近なひとの意見はあまり参考にしすぎないほうがよいと思っているが(感情が入りすぎていると客観的に似合う・似合わないの判断がつかなくなる)、眼鏡や帽子など、顔まわりのアイテムは、身近なひとの意見を尊重したほうが案外間違いない。眼鏡をかけて自分で鏡を見ても、二重のフィルターがかかって実は正確には把握できていないのではなかろうか。


普段、ワンデイの使い捨てコンタクトレンズも併用しているが(映画を観る時などは視界が広くなるのでコンタクトのほうがよい)、取材や打ち合わせの際は眼鏡をすることが多い。特に取材では目の動きや表情が露骨に相手に見えないほうがよいと思っている。なぜと聞かれても明確には答えようがないが、長年の経験値からそう思う。


というわけで、今回もJINSで新しい眼鏡をつくった。購入履歴を見ると、2013年の頭に丸いフレームの眼鏡を買い、以来ずっと使い続け、同じようなタイプながら、ひと回り大きい丸眼鏡を昨年購入している。


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2013年の時点では丸眼鏡が新鮮だったのだが、近年は猫も杓子も状態になってしまったため、そろそろスクエアなタイプに戻ろうかと思っていた矢先、JINSとジャスパー・モリソンのコラボが始まったことを知った。


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ここで提唱されている「ニューノーマル」とは、ジャスパーのデザイン理念であるところの「スーパーノーマル(究極の普通)」を踏襲したものだと考えてよいだろう。これは、無印良品でもおなじみのプロダクトデザイナー深澤直人と組んだ2006年の「スーパーノーマル」展などでも提唱された考え方だ。いかに目立つかではなく、デザイン性が突出することもなく、余計なものが削られて長い年月の間に淘汰された日用品の中にある魅力を再発見しながら、その物を微かに進化させてアップデートさせる試みと同様のことを、今回のJINSでもやろうとしているようだ。こちらのインタビューに簡潔にまとまっている。



デザイン集団グルーヴィジョンズによるビジュアルが推すのはブルーライトカットのPC用眼鏡だが、私が気になったのはそちらではなくスタンダードなアイテムのほうだ。ウェリントン、ボストン、スクエア、アイコンの4種類が揃うユニセックス。


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今までであればボストンを選ぶところだが、今回はウェリントンのマットブラックにした。ジャスパー自身がかけている眼鏡とかたちが近いこともあって思い入れがありそうだと勝手に判断したこともあるが、全種類かけてみたところ、一番顔なじみがよかったのがウェリントンだった。かけてみるとよくわかるのだが、これはありそうでないかたちだと思う。一般に黒のフレームは主張が強すぎる傾向にあるが、このかたちとマットブラックの質感によって顔に自然と溶け込む。余計な装飾が一切ないところもよい。眼鏡が主張しすぎることもなく、そのひとの顔の雰囲気を補助してくれるようなかたちと質感。かけ心地もよい。これでレンズ込み5000円。JINSとジャスパー・モリソンが提唱する「ニューノーマル」は、私が服や日用品に求める価値観とも近い。それは「あたらしいクラシック」と読み替えても間違いではないだろう。


そういえば最近、少し前に出ていた2冊の雑誌を購入した。「ポパイ」201710月号(9月発売)のクラシック特集「Finding the Classics.」と「ブルータス」201710月号(9月発売)の「STYLEBOOK 2017-18A/W」である。おそらくどちらも書店でざっと読んだはずだが、その時点では購入していなかった。あるひとから、「あれ読みました?すごく面白かったですよ」といわれて興味をもち、先日バックナンバーを買ってみたところ、腑に落ちるところが多々あり、「まだファッション誌の役割全然あるじゃん」と思った。


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ポパイのほうは、アンディ・スペードによる「THE CLASSIC HANDBOOK for CITYBOYS」というブックインブックが素晴らしい。冒頭、「これはクラシックな着こなしの指南書ではない。クラシックな着こなしの裏にある“考え方”のひとつである」と宣言されている通り、これをマニュアルにする必要もないが、まさに考え方、思想といったものには大いに触発された。「服はあくまでもその人のパーソナリティのほんの小さな一部でしかない。だから、君の第一印象が『この人は服に気を使っている人なんだな』といったものであるべきではないのだ」「もし君の着る服が多くを語っていたら、それは君が服のことを気にしすぎているということになる。それよりもカルチャーについて知ることや、読書をして知識を得ることが大事だね」等々、イグザクトリー!という感じだ。そして、ファッションスナップブログ「MISTER MORT」のモデカイによる「Old New York Classic Style」も面白い。世間の流行ではなく、自身の法則を大切にしている人たちの着こなしはなんとも自由で楽しく、示唆に富む。


ブルータスも、ブックインブックの「STUDIO BRUTUS SUPPLEMENT BOOK」が読み応えあり。スタイリスト北村道子は俳優の池松壮亮に対して「俳優がいつもおしゃれでいるのはあまりよくない」「なぜならほとんどの人が服に負けてしまうからです。それにほとんどの人が洋服の選び方を間違っている。だからこそ、どうでもいい服を着ることが大事なの。ブランドというものはデザイナーの言葉を宿している衣服です。だからこそ、デザイナーの言葉をむやみやたらに使ってはいけません」「例えば、全身寅壱というのもいい。あの作業ズボンはかっこいいですよ」と語る。


あるいは哲学者・千葉雅也とUAの栗野宏文の対談では、二人ともよくブランド古着屋のラグタグに行くという興味深い話をしながら、古着屋のアーカイブス性を評価する。千葉氏はラグタグでコム・デ・ギャルソンを買うと言い、栗野氏は10年前のものと去年のものが同列に並ぶ古着屋にジェンダーレス、シーズンレス、エイジレスという服の「レス化」による自由さを見ながら、洋服がシーズンごとに使い捨てになっている現状を突破する鍵がそこにあるのではないかと考察する。


そして、下町の市井の人々のポートレートを撮り続ける写真家・鬼海弘雄とソニア・パークの異色対談も興味深い。「この人たちはしょうがなくて着ているんですよ。でも、その取り合わせがすごく面白くておしゃれですよね。お金でいい服を買えばかっこよくなるわけではない、ということを証明してくれている」と鬼海氏は言う。


これらの言葉の数々は、いたずらに消費され、使い捨てにされていく服のありかたとは真逆のベクトルだろうと思う。服単体の価値やコーディネイトの良し悪しを超えた、服、衣服をとりまく哲学。あるいは服とひとのあらたな関係についての模索。私はそうした言葉にこそ反応する。マストバイアイテムを買い漁る→フリマアプリで売りさばく、の繰り返しの中からはカルチャーや哲学と呼ぶべき言葉は生まれないだろう。衣食住とはよく言ったものだが、暮らしの中で食や住と肩を並べる衣を語る言葉が「ヤバイ」と「カワイイ」しかないとしたら、それは文化的衰退である。


こうして私は、また何かを買う。




by sakurais3 | 2017-11-15 01:17

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