一昨年くらいからだろうか、あちこちの洋服屋でセットアップをよく見かけるようになった。いわゆるスーツよりもカジュアルな上下揃いの服であるところのセットアップは、ネクタイをする必要はないもののある程度ちゃんとした格好が求められる場面で活躍するが、仕事とプライベートの区分けが曖昧な私のような職業の者にとっても大変重宝するアイテムである。
春から夏にかけて、次第に服装がラフになっていくのは高温多湿な日本の気候風土を考えれば理にかなっているが、そうはいっても時と場所、会う相手によってはTシャツ1枚でふらふら出ていくのはあまりに無防備といえよう。そんな時、Tシャツの上に着るだけでちゃんとして見えるセットアップは実に都合がよい。昨年はユニクロ&ルメールのシャンプレーのジャケットと同素材のイージーパンツを組み合わせたセットアップを仕事でも仕事以外でも着倒した。
今年も、4月~5月はかなりの頻度で着用したが、割としっかりとしたつくりのため、5月も後半になると暑い。真夏になれば半袖シャツで良いと思うが、そこに至る季節のはざまに着用できる、もう少し薄手のセットアップが欲しいと思い、いくつかのセレクトショップで試着をしてみたりもした。具体的にはユナイテッドアローズ・ビューティー&ユースとジャーナルスタンダード・レリュームであるが、帯に短しタスキに長しという感じで購入には至らず。ただ、セットアップの素材としてはこれからの季節にはシアサッカーが良いということは試着で明白になった。
そんな時に見つけたのが、無印良品のシアサッカーセットアップである。いや、正確には別々に売られているストレッチサッカージャケットとストレッチサッカーイージーパンツがセットアップとして着用できることに気づいたということなのだが、非常に軽やかで通気性も良く、それでいて皺になりにくい。洗濯後もすぐに乾く。本来サッカー地といえば素材はコットンだが、これはストレッチが効いているのでポリエステル(セレクトショップで試着したものも同様だった)。
細いストライプのタイプのほうが「いかにもシアサッカー」なのだが、リゾート感が強くなってしまうので、仕事で着るにはネイビーのほうがいいだろうと判断。
サッカーの特徴である凸凹のある素材のため、ネイビーでも無難過ぎず、表情がある。ユニクロのドライストレッチジャケットはいかにもテラテラのポリエステルのため着ようとは思えなかったが、無印のほうは同じポリエステルでも風合いが良い。無印の素材に対する目配せは、相変わらず確かだと思う。
しかし、せっかくセットアップで着ることができるアイテムにも関わらず、ネットストアでも店頭でも、そのことを前面に打ち出していないのは実に不思議な話だ。これだけ世にセットアップが氾濫しているにも関わらず。店舗によってはイージーパンツのみ販売していて、ジャケットは置いていなかったりもするようなので、そもそもセットアップとして売る気がないのかもしれない(ネットストアの写真はセットアップになっているが、文言として『セットアップとして着用することもできます』とは謳っていない)。
この辺り、衣料品メーカーではないがゆえの無印の弱さなのかもしれない。2016年の秋冬、巷にはチェスターコートが溢れ、やれオーバーサイズだビッグサイズだと喧伝されていたご時世にメンズでショート丈のダッフルコートを出してしまう空気の読めてなさ。「いや、うちはその時々の流行りにいちいち迎合しないんです。長く愛用される定番だけ出していくんです」というスタンスを貫くのであればそれはそれで結構なことなのだが、チラチラとトレンドにも目配せしつつ、それが大体1、2年遅いというのはいかがなものか。無印の顔ともいえるオーガニックコットンやフレンチリネンしかり、素材に対する目配せは確かなものがあるだけに、このデザイン的なタイムラグはつらいものがある。
おそらく、ある商品企画が立ち上がり、デザイン作業から素材の調達、工場の確保、クオリティ管理などを経ていくとある程度時間がかかるのだろうが、たとえばGUのトレンドに対するスビード感のある乗っかり具合などを見るにつけ、それと同じことは求めないまでも、もう少し迅速なサイクルでできないのだろうかと他人事ながら心配になる。いっそのこと無印はトレンドと関係なく定番だけをマイナーチェンジしながら出し続ければいいのではないかとすら思うが、じゃあ毎年グローバーオール的な定番のダッフルコートを出し続けていればそれでいいかというと、商品企画の観点からはそうもいかないのだろう。
おっと、そんなことはどうでもいい。この無印良品のストレッチサッカージャケットとイージーパンツをセットアップで着るとたいへん良い、ということが言いたいのである。セットアップの中には白Tを着るのが定番のようで、着用例を見てもその組み合わせばかり目につくが、あまりにも無難過ぎるというか凡庸過ぎて、そのひとらしさはどこへ?という気がするので、Tシャツを着るのであれば白ベースでうるさくない程度にデザインが施されたものを差し込みたい。
ユニクロ・UTのソル・ルウィットTシャツは、ボーダーとストライプを混在させたような幾何学模様のため、ジャケットのインナーとしては最適。光沢のあるラバープリントがアクセントになる。襟がやや開き気味で丈が短めの形はインナーとして着ることを想定しているのだろう。
こちらはGUのロックTシリーズの1枚、レッチリ。
ジャケットの中に着ると文字は読めなくなるが、そのくらいでちょうどいい。ビッグシルエットと銘打たれているが、それほどビッグではなく、裾にはちゃんとスリットが入っている。そうそう、無印では今季から遅ればせながらビッグシルエットのTシャツを出し始めたが、裾にスリットが入っておらず、「ほらやっぱり無印がトレンドを追うと中途半端なことになる」と思わずツッコみたくなった。スリットが入っていると、ビッグシルエットでも座った時にお腹のあたりがダブつかないのである。ユニクロやGUはさすがにその辺りを心得ている。
いずれにしても、本格的に半袖の気候になるまでは、この無印のセットアップが活躍するであろう。素材・価格面でちょうどいい感じのセットアップを探しているひとは、一度試着してみることをお薦めする。