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Keep Your Shoes on.~ビルケンで靴を磨いてもらった日






ひとの買い物に付き合って、ファッションビルに入るビルケンシュトックの店舗に行った。すると、入口に「靴磨き無料サービス実施中」と書かれた立て看板があり、お揃いのネイビーのショップコートでキメたスタッフがせっせと靴を磨く姿が目に入った。


この日、僕は三交製靴のラギッドシューズ・茶のプレーントゥを履いていた。そういえば、しばらくブラッシングとグローブシャインで磨くだけでクリームを塗っていなかったことを思い出した。考えてみれば、これまでプロに革靴をきちんと磨いてもらったこともなかった気がするし、自己流のお手入れとどのくらい違うものなのか興味があった。ぼんやり看板を見つめていたら、スタッフのひとりが「いかがですか、靴磨き。ウチの靴やサンダルじゃなくても構わないですよ」と促すので、お願いすることに。


磨いている靴を見ると、ほとんどがビルケンのものではなく、他社のレザースニーカーやブーツだった。ビルケンといえばサンダルだが、盛夏ならいざ知らず、10月も半ばになったこの時期、ファッションビルに買い物に来た客の中でビルケンを履いているひとの数はそれほど多くはないはずだ。もちろんソックスを履いて秋に履くひともいるにはいるが、そういうひとがたまたまここに来る確率はいかほどかと思う。しかも3連休の中日、普段は革靴を履くビジネスマンの足元もほぼスニーカー。せっかくの靴磨きサービスもこれじゃ張り合いがないだろう。


そんな時に現れた「休日なのに革靴野郎」。ちゃんとした革靴を磨きたくてウズウズしている男たちと、一度プロに革靴を磨いてもらいたいと思っている男。両者の思惑が、この瞬間、奇跡的に一致したのだ!(大袈裟)



お時間10分ほどかかりますとのこと、いやなに先を急ぐ旅でもあるまいしそれは一向構わぬが、はてその間、それがしは靴下一枚のまま待たねばならぬのか?と一瞬危惧するも即座にスタッフがこれを履いてお待ちくださいとビルケンのルームシューズを差し出した。しかもちゃんとこちらのサイズに合うものを。実に気が利いているではないか。


お借りしたフェルト素材のルームシューズを履きながら店内を歩いたのだが、これがたいそう履き心地がいい。ビルケンのサンダルを長年愛用している身としても、歩いた瞬間に「おっ」と思うくらい足裏の当たりがやわらかい。聞けば、通常のビルケンとはソールが異なり、室内用のソフトな素材を使っているのだという。「職場で社内履きにされている方も多いんですよ」とスタッフの女性。なるほど。職場の便所サンダル、健康サンダルの類はゾッとするが、これだったら見た目も問題ない。アムステルダムというモデルだそうだ。



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そうか。なぜ無料で他社の靴をせっせと磨くのか最初は不思議だったが、磨いている間にこうして代替品を履いてもらうことで自社の靴の履き心地を実感してもらおうという戦略なのだとしたら、これはかなり高度なセールスプロモーションではないか。実際、自分も「これ部屋履きに買って帰ろうかな」と思ったくらいだ。しかも、自分ではまず選ばないであろうこの赤のルームシューズ、『2001年宇宙の旅』に登場した宇宙ステーションのあの赤いソファ(オリヴィエ・ムルグ)を思い出させもして、とても気に入ってしまった。



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そうこうしているうちに靴磨きが終了。靴を磨いていたのはビルケンのリペア担当のスタッフだった。その中でいちばんベテランと思しきひとりが、「この靴、すごくいいですよねえ。つくりもしっかりしていて丁寧で」と、やや興奮気味に言う。うれしいことを言ってくれるじゃねえかと我が子を褒められた馬鹿親(あ、親馬鹿か)のような気持ちになり、三交製靴の話から靴談義へ。


スタッフ「お客さんの靴、しっかりお手入れされているのでほとんど何もする必要がないくらいだったんですが、少しクリームでツヤ出ししたのと、踵の内側の擦れを補っておきました」


僕「クリームを塗るのは3週間に一度くらいで、あとは小まめにブラッシングしてグローブシャインで磨くくらいなんですけど、それでいいんですかね?」


スタッフ「シューケアで一番大切なのはブラッシングなんですよ。髪の毛のブラッシングって、髪の毛をとかすことと頭皮を活性化させる効果がありますけど、革靴も同じです。単に埃や汚れを落とすだけじゃなくて、ブラッシングによって革の奥に溜まった油分を表面に呼び起こして、また生き生きとした状態にすることができるんです」


僕「じゃあ、そんなに頻繁にクリームを塗る必要はないんですね」


スタッフ「はい。1ヶ月に1回くらいで、あとはブラッシングと布で磨くだけで十分かと。クリームを塗り過ぎると革が柔らかくなり過ぎてしまいますから」


みたいな話をした。そして、「これ、今日使ったクリームなんですが、よろしければお使いください」と言って試供品をくれた。コロニルのシュプリームクリームデラックス。原産国はドイツと表記されている。ビルケンだからドイツなのかと頷き、ありがたく頂戴する。

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店を出て、自分の足元を見ると、確かにツヤが出ているし、全体的にフィット感も良くなったように思える。それがクリームのせいなのかプロの磨き方によるものなのかは今のところ分からないのだが、いずれにせよリアル店舗の良さを再認識した時間だった(たかだか10分くらいしか滞在していないが)。



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しかし、靴磨きを待っている間、店内で接客するスタッフの話を何気なく聞いていると、実に丁寧に説明し、フィッティングしていることが分かった。今までビルケンを買うのはABCマートやらセレクトショップやら果てはドンキやらで、正規店を利用してこなかった訳だが、少し考えが変わった。次に買う時はここに来ようか、と思えたこと自体が最大の宣伝効果ではないか。


客に1円もお金を使わせていないが、それが結果的に顧客を生み、こうしてブログに長々と書かせるような力をも生む。リアル店舗が生き残るためには、こうした一見遠回りとも思える仕掛けが必要なのかもしれないなと思った。







by sakurais3 | 2015-10-12 12:46

ライター・さくらい伸のバッド・チューニングな日々  Twitter saku03_(さくらい伸)


by sakurais3
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